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自治の肝は制度か人か

印刷用ページを表示する 掲載日:2011年7月25日

九州大学大学院法学研究院教授 木佐 茂男 (第2768号・平成23年7月25日)

あれもこれも「自治」に任すことは、それほど至高の価値なのだろうか。2000年新地方自治法施行で画期的に「自治」体の意識は変わるはずであったが、信じがたいほど「気づき力」と「自治能力」が後退しつつある。当然に、自治能力後退にさえ気づいていない。自治事務中の自治事務、固定資産税賦課業務について昨年(2010年)6月3日に極めて重要な最高裁判決が出た。私事を契機にいささか調べてみた。

筆者の実家の宅地には、家族・親族が無価値以下と思っているのに、信じがたい評価額が付いている。人口15万人の市の資産税課の課長補佐を始め全員が評価額の決定と納税通知の関係も知らなかった。そもそも評価替えの年度がいつかも無知。それ以上に、現地・現状とは無関係に宅地評価額が決まる実態を知り愕然とした。

普通の市民は地方税法を見て、固定資産評価額と固定資産税納税通知を争おうとしてもチンプンカンプンである。『固定資産評価基準』(地方税法388条1項)なるものを見ようと努力した。かつてはインターネットで公開されていたこの総務大臣「告示」は、自治事務の執行基準なのに、今では自治体も国民も高額の解説付き書籍として官僚の天下り協会から購入するしかない。しかも、ネット書店でも買えない入手困難なもの。

自治体の中にはホームページで、評価額の審査申出書など、結構ふんだんな関係情報を公開しているところがあるが、あまりに全国バラバラである。個々の自治体窓口で職員に聞くしかない。上記の課長補佐は、筆者の評価違法の主張を認めると、モノ言わない他の住民との間で「平等原則違反」になる、という。部下の職員たちは恥ずかしさのあまり、手で顔を覆っていた。

固定資産評価のような手続は、評価基準などの地域個性はありえても、争い方自体や審査申出方法に関する情報提供の基幹的部分は全国一律であって、どこが悪いのだろうか。自治体の中には、「正副二通」の審査申出書を求めるところもある。地方税法432条2項は、わざわざ正副二通の提出を求める行政不服審査法9条2項の規定の準用を排除しているが、「自治」条例なら許されるのか。

どの課題、論点が、どのような形で、誰の「自治」に委ねられるべきか。今、自治の「肝」を探る根本的な議論が必要ではないか。