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人づくり、体制づくり、合併後の検証

印刷用ページを表示する 掲載日:2006年6月26日

九州大学大学院法学研究院教授 木佐 茂男 (第2565号・平成18年6月26日)

合併前のある自治体。知人である一人の職員が、自らの20代後半から30代にかけて、将来を見据えて私塾を続けてきた。参加者は、当然に彼より若い。今、幹部である彼はこう述べる。自分が仕えてきた20人以上の課長たちにはほとんど学ぶものがなかった。管理職になると何か起きても前へ出ようとしない。ここで「前」とは、窓口カウンターや交渉・事件・事故の現場である。彼は、係長以下の職員に助言した。「上をあてにするな。トラブルでは前面に出ろ。ただし、課長以上の管理職には、自分が行う仕事の手順や結果見通しを示して説得しておけ」。

私塾は、毎週18時から22時半にかけて行われ、外部講師を呼ぶときの費用は彼が負担したという。参加した職員は、自分の部署の課題や庁内の問題点を語り、上下・左右の同僚から意見をもらい、情報の共有化やプレゼン能力の強化を図っていき、政策課題の発見や調整の技術も身につけていった。トップが人づくり資金を用意しなくとも、勉強の手法にはいろいろあるという一例である。

そして、ついに合併。3倍ほどの人口規模のある市やその他の町村と1つの自治体になった。合併後しばらく時間を経たこの4月の人事異動で、彼のいた自治体からは、各出身自治体の職員の比例数よりもずいぶん多くの職員が管理職に登用された。

この市の近くでは、片手の指を超える数の町村から合併により別の新市も誕生した。新市役所を探して走るが、国道、県道にも市役所の案内標識がない。やっとたどり着いた庁舎前に初めて案内を見たが、1枚の大型標識の上から4番目に書いてある。将来の本庁舎の所在地を決めずに合併をしたことを無意識に反映していて、「暫定」庁舎ぶりがわかるこの市役所案内標識のことを合併以来指摘した人は誰もいなかったという市長の顔は、合併直後にお会いしたときよりも険しかった。

合併には、本来、人づくりも含めた長期戦略が要った。今から人づくりでは時遅しの感もあるが、財政危機はまず人づくり予算の削減に向かう。人づくりに遅れたり、本庁舎の位置も落ちつかない自治体は頭脳的政策プレーができるだろうか。