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アルプスの少女ハイジの政治能力

印刷用ページを表示する 掲載日:2005年2月7日

九州大学大学院法学研究院教授 木佐 茂男 (第2508号・平成17年2月7日)

最近、スイスの地方自治にこだわっている。20年近く前に訪ねた「アルプスの少女ハイジ」のゆかりの地として知られるマイエンフェルトの自治をみよう。人口2,400人だがマイエンフェルトは「市」である。同市の憲法正文に付属する前史は1436年から説き起こす。

小説のハイジの著者が住んだのはマイエンフェルト郡の別の村なのだが、ここはこだわらないでおこう。ハイジはどのように政治能力を身につけておとなになるのか。

この小さな市には、全91条に及ぶ市憲法がある。スイスでは連邦、州、郡、市町村ともに同じ名称の「憲法」と「法律」を持っている。市長はプレジデント、議会はパーラメントという。つまり、市町村も「統治団体」という誇りを持つ。同市の場合、市長を含め7名の議員を住民総会で選ぶ。政治参加資格は18歳以上で、市政治への参加は全有権者の義務であり、総会で選出されて引き受けなければ、100スイスフラン以下の罰金がある。市長以外の6名の議員は、それぞれ総務、教育・社会、会計、森林管理、酪農、警察について課を担当し、職員の職務執行を統轄する。4年の任期を終えると、権利として2年間の「休息」期間がある。

どうして「フツー」の市民が各専門組織を仕切ることができるのか。おそらくその秘密は小さい頃からの政治教育にある。この市では、予算から法律まで住民総会で決める。案は、総会1週間前までに全有権者に配布されていなければならない。18歳になると市の財政問題、条例制定、市役所の幹部人事にまで自分で判断を下さなければならない。おじいさんが村の財政状況を把握して、議案や予算案を読んでいる姿は、ハイジにとって、自ずと政治教育となり、自治の仕組みと実情を熟知する機会になるのではないか。

市のホームページには、見習い職員、外郭団体の全職員、警察官も含めて全職員の氏名が、議員や幹部職員は写真・電子メールIDも載っている。質問のため問い合わせ用IDに電子メールを送信したら、1時間後に専任職員のトップである事務局長自身から返信が来た。情報の公開と共有、トップ自らの機敏な対応。政治や行政の身近さと水準を垣間見たような気がする。