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「美しい海辺の創造」を

印刷用ページを表示する 掲載日:2005年5月30日

静岡文化芸術大学学長・東京大学名誉教授 木村 尚三郎
(第2521号・平成17年5月30日)

これからの時代、「海辺」が集いの場、賑わいの場、有力な観光地として大きな注目を浴び、活性化するのは間違いがない。先行き不透明の、どこか暗い閉塞状況が、技術文明の大きな意味での成熟とともにつづいており、今世界の誰しもが明るい開放感を真剣に求めているからである。インド洋沖大地震により大災害を蒙ったプーケット島をはじめ、東南アジアの沿岸諸地域しかり、地中海沿岸地域しかりである。

海辺には、理くつぬきの精神の解放があり、世の中の憂さを忘れさせてくれる自由がある。そこで涼風に髪をなぶらせ全身を委ねながら、新鮮な海の幸に舌鼓を打ち、楽しく食べ合い飲み合いする。あるいはともに語らい、ともに散策する。そうすれば、家族、友人はいうに及ばず、たとえ見知らぬ相手とでも心が開け、心が通う。大きな幸せ感、安心感で身体全体が満たされ、「生きていてよかった!」と心底実感する。

そのためには、海辺に点在するおしゃれなレストラン・カフェテリアの類いも欲しいし、どこまでもつづく快適な遊歩道や、ところどころのベンチも欲しい。後背地の都市・自動車・道路・ホテル・キャンプ施設なども不可欠である。美しい景観を壊す海辺の建物・構造物は、可能な限り撤去したい。

私たちにとって宝であり、財産であり、心と身体に元気を与えてくれるはずの海辺が、一部を除いてほとんど全て放置され、あるいは産業化の犠牲として傷つけられてしまっているのが、残念ながら日本の現状である。海洋民族・海洋国家日本とは名ばかりで、これほど海と海辺に無関心な国も珍らしいのではないか。

河川の保全・修復は進められるようになったが、これからは「美しい海辺の創造」に本腰を入れねばならない。私たちの幸せのため、日本の魅力度を世界に高めるために、である。