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新郷土料理の創造を

印刷用ページを表示する 掲載日:2004年4月5日

静岡文化芸術大学学長・東京大学名誉教授 木村 尚三郎
(第2475号・平成16年4月5日)

今年は、国連が定めた国際コメ年であり、日本委員会も1月20日に立ち上がり、記念シンポジウムも同日行われた。地球人口60億人の半数以上がコメを主食としており、飢餓を救い栄養バランスを回復する上で最適の食材であるとの観点から、コメの重要性についての認識を喚起するためのものである。「コメはいのち(ライス・イズ・ライフ)」という、簡潔で力強いメッセージが添えられている。

コメをベースとする日本型食生活が健康と長寿のもとであることは、日本が世界最長寿国である事実から明らかである。しかしその日本型食生活の具体的な中味はとなると、いっこうにはっきりしない。懐石料理はめったに口にする機会がなく、むしろ外国料理に近い。

国際コメ年を機会ととらえ、土地ごとに新郷土料理を創り出すときであると思う。年間1,700万人に近い日本人が、海外旅行に出ている今日である。新たな味覚、新たな食材を加え、土地ごとに地産地消の新たな郷土料理を、コメを中心として創り上げる。それは土地に生きる自信と誇りとなり、外国人をも含めて土地を訪れる人たちにとっての目玉となり、観光振興の上にも大きな役割を果たすことになる。

南イタリアのシチリア島には、アランチーニというごはんの揚げ物がある。小さな三角おにぎりのなかにチーズを入れ、全体をコロッケのように揚げた物である。とてもおいしく、3時のおやつにはぴったりの食べ物である。南フランスの地中海に面するカマルグ地方には、ごはんの上にビーフシチュー(ブッフ・アン・ドーブ)をじゃぶっとかけた、闘牛の牛を育てるカウボーイ用の、立喰い牛丼(ブッフ・ガルディアン)がある。一方、あつあつのフォワグラずしもワインによく合い、おいしい。

このようにごはんは、さまざまな料理を生み出す可能性を持っている。新郷土ごはん料理の全国勢揃いを期待したい。