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住民は旅人、旅人は住民

印刷用ページを表示する 掲載日:2003年12月22日

静岡文化芸術大学学長・東京大学名誉教授 木村 尚三郎
(第2463号・平成15年12月22日)

本年(平成15年)10月30日、31日の両日にわたって、岐阜の高山市で、全国市長会ほかによる第65回全国都市問題会議が開催された。約2千人の市長・都市関係者が集まり、これからのまちづくりについて、研究熱心な内容の提言、事例報告がつぎつぎとなされ、盛会であった。

都市間大競争時代の到来のなかで、いかにして自分の町の魅力を高め、まちの繁栄と住民の幸せ向上に結びつけていくかが問われている。折しも国土交通省は11月1日、都市部を中心に美しい景観づくりを目指す「良好な景観形成総合的推進法案」(仮称)をまとめた。

確かに日本の都市は、とりわけ戦後汚くなった。このことが、外国人にとって日本の魅力を損なう、大きな要因の一つとなっていることは否めない。美しい都市景観づくりのための法案は、大賛成である。

ただその場合の「美しさ」とは、街角のどこかに立ち止まってパチリと写真を撮り、美しいなと思うだけでは、もはや不充分である。先行き不透明ななかで、小は散歩、大は海外旅行の、いつも「動きつつくらす」時代がやってきた。「住民は旅人」の眼でまちを歩き、「旅人は住民」の心で、まちの「くらしといのち」の知恵と楽しさを味わおうとする。つまりは歩きながらの美しさ、動く景観の魅力が、いま問われている。スティル写真ではなく、8ミリビデオの美しさ、魅力である。

しかも目だけではなく、同時に耳鼻口手足にとっての美しさ、心地よさが、都市景観の総体を形づくり、その是非を決定する。私どもの大学の学園祭(浜松)が、11月1日、2日の両日催されたが、入口を入った途端、小さな子が「いい匂い!」と叫んだ。ヤキトリの匂いであった。お茶のいい匂いがしなければ、お茶のまちとは云えないだろう。いい鐘の音、いい静けさ、いい石畳などのすべてが、これからのまちの景観を形づくる。住民にも旅人にもひとしく、である。