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年を重ねることの麗しさ

印刷用ページを表示する 掲載日:2004年2月9日

千葉市女性センター館長・アナウンサー(元NHK) 加賀美 幸子 (第2468号・平成16年2月9日)

毎年NHKホールで「NHK全国短歌大会」が行なわれる。寄せられる作品も年毎に増え、今年は37,000首近い数であった。その中から特選歌の朗読と、20人の選者による選評が、披露される。作者(受賞者)と会場に詰めかけた短歌を愛する人々、そして日本語の心と響きに思いを寄せる人々と共に、言葉の世界が厚く広く深く繰り広げられる。言葉の力の大きさを改めて感じる嬉しいひと時である。

昭和62年に始まったNHKホールでの全国大会、私はその第1回から朗読を担当してきた。朗読する短歌は、初回から今に至るまで、言わずもがな、どれも力があり、朗読するわが力を毎回試されるという有難くも厳しい時間と空間であり、私にとっても全身全霊をかけて臨む短歌大会なのである。

この大会を作り育ててきたのは、今年73歳になる佐々木史子さん。彼女は歌人であり、現役のディレクターであり、わが先輩のアナウンサーでもある。才能豊かというと、バリバリの姿をつい想像し勝ちだが、ニコニコのまあるい笑顔、小柄でふくよか、ゆっくり歩き、何事も良い方にしか捉えない、特別なおしゃれもしない、自然のままの日本のお母さんなのである。しかしそれは強い芯があるからこそ醸し出せる風情であることに間違いない。生き生きと歳を重ねる人生の先輩は何より美しい。

今年の特選歌の中にも、百歳の作者、又、百歳の父を詠んだ豊かで悠々たる作品が人々の心を掴んだ。「この桜 見納めなどと思うまじ 満喫しよう百歳の春」埼玉県の西崎一代さん。「菊作る百歳の父が出来栄えは 今年も今年が一番と言う」京都の飯田輝子さん。…車椅子で出席された西崎さんのお顔は美しく会場には幸せの空気が拍手とともに流れた。年を重ねることの麗しさ、清々しさ…人々の思いが重なって、会場は深い感動の言葉の世界であった。