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日本の「ベスト・プラクティス」

印刷用ページを表示する 掲載日:2007年11月12日

NHK解説主幹 今井 義典(第2621号・平成19年11月12日)

最近よく耳にするのが「ベスト・プラクティス」ということばだ。一年前までは国際会議の場で聞くだけだったが、最近は日本国内でもよく使われる。日本語に訳せば「成功事例」とか「優良事例」とか、昔からあったことばに当たるようだが、横文字にするとなんとなく新鮮でもある。IT産業の人がよく使うので、「電子自治体」などに取り組んでいる方は先刻ご承知かもしれない。世界で、あるいは業界で、最も優れている先進的な業務のプロセスやノウハウを参考にして、自分たちの業務をより効率よく、高度なものにしていく考え方だ。

ITの世界で日本の「ベスト・プラクティス」として挙げられるのが、携帯電話の「迷惑メール」を撃退した取組みだ。「儲かるから」といって放置しておけば、本来のサービスに悪影響が避けられないとして、厳しい指導と最新技術を駆使して悪質な迷惑メールをはじき出した。この成功事例をインターネット全体の国際的なセキュリティ向上に活かせないだろうか。

最近全人類の問題として取り上げられる地球温暖化問題・環境問題でも、日本の公害対策と省エネ技術開発は「ベスト・プラクティス」だ。お隣中国の経済の急成長は、どうしても環境対策をなおざりにしがちだ。「まず成長を」というが、対策が後回しになればあとで払うツケが高くなることは明白だ。しかも北京五輪関係者からは選手の健康不安が囁かれるし、日本の光化学スモッグ被害の原因ともいわれ、問題は中国だけにとどまらない。中々実感しにくい地球温暖化対策への取組みの入り口として、60年代、70年代の日本の苦い経験を参考にし、そこから生まれたシステムと技術を是非活かしてもらいたいし、日本の積極的な協力姿勢も大事になる。

勿論日本もこの程度で胸を張っているだけでは許されない。来年はG8の洞爺湖サミットに向けて、政府と産業界、そして国民が一体となって地球温暖化対策の「ベスト・プラクティス」を世界に示すことが求められている。