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「視援隊」の話

印刷用ページを表示する 掲載日:2006年8月28日

NHK解説主幹 今井 義典(第2571号・平成18年8月28日)

レバノンやスーダン、ソマリアなど戦火や紛争に追われる難民のニュースを耳にしない日はない。世界ではいまも2千万人が家を追われ、難民として厳しい状況の中で苦しんでいる。遠く離れた平和な日本の私たちに何ができるのか、実は日本にも「他人事ではない」と様々な活動を地道に続けているNPOや企業がある。

札幌にある富士メガネというメガネ店もその1つ、紛争地の難民にメガネを贈る運動を続けている。金井昭雄現会長が1983年に始めたとき、最初に選んだのはタイだった。ベトナムやカンボジア、ラオスから逃れた難民の多くは着の身着のまま、なんとか難民キャンプに辿りついたものの、書類を書いて登録したり、現地の言葉を学んだりと、無くてはならないのがメガネだ。といってもメガネは1人ひとりの視力に合わなければ役に立たないから、海外からのものを送り付けるだけでは済まない。

支援活動を始めて23年、タイに続いてネパールやアルメニア、アゼルバイジャンなどの難民キャンプを延べ24回訪問し、贈ったメガネは108,200組にのぼる。最初は尻込みした社員も積極的に参加するようになったし、この話を聞きつけて入社試験を受けに来る若者まで出るようになったという。

持っていくメガネレンズは4千組、フレームは流行遅れになったものをメーカーの協力で活用できるようになったし、今年は携帯用検眼装置を提供してくれる光学メーカーも出てきて、裾野が広がっている。毎日数百人、1週間近くかけて1人ひとり検眼をしてその人に合うメガネを作る。現場で対応しきれない特殊なものは日本に帰ってから作って送り届けるきめ細かさだ。金井さんが自らの活動を坂本竜馬の海援隊にちなんで「視援隊」と名付けた心意気がうかがえる。

苦しむ難民からは感謝され、社員の意気も上がる。これこそ本業を活かして社会に貢献するCSR(企業の社会的責任)のお手本だ。金井さんはこの秋、難民支援活動で最高の栄誉であるナンセン賞が国連難民支援機関のUNHCRから贈られる。