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ITを世界へ

印刷用ページを表示する 掲載日:2006年2月13日

NHK解説主幹 今井 義典(第2549号・平成18年2月13日)

去年の11月、北アフリカのチュニジアで開かれた世界情報社会サミットに参加した。世界140カ国から政府関係者をはじめ、IT専門家や企業代表、NGOなど2万人も集まるアフリカ最大の国際会議になった。そこでの課題は、世界中で飛躍的に進んでいるIT革命から取り残されかねない発展途上国、中でもアフリカの国々のIT化をどう進めるかにあった。

今や世界でインターネットにつながっているのは10億人、携帯電話も15億人が利用している。しかし、アフリカのサハラ以南は、人口は世界の10分の1を占めているのに、電話の普及率はわずかに0.2%だ。たしかにインフラ整備が容易な携帯電話は、世界の2倍のペース、年率65%の勢いで増えている。しかしご他聞にもれず電話会社の民営化が進み、利益の上がる都市部優先で、農村部は後回しだ。しかも1通話の料金が農民の1日分の稼ぎの半分もかかる。こうした国では、政府に加えて先進国からのNGOが、まず携帯電話を使った公衆電話システムから普及させようと頑張っている。

さらに注目を集めたのが100ドルパソコン。アメリカの研究機関やIT産業が参加するNGOが音頭をとって進めている。電源がなければ手巻きの発電でもよく、回線がつながればインターネットもできる優れものだ。援助資金などを活用して途上国の政府が買い取り、教育省が子供1人に必ず1台配るのが狙いだ。

しかし「アメリカがアフリカ市場を食い物にしようと狙っている」と反発する国もアフリカの中にある。

もう1つ、頑張っているのがコミュニティ・メディアだ。海外や国内のラジオ放送を、村落単位の小出力のFMラジオ局と結びつけて情報を伝える。これがうまくいっている国では、ラジオで伝えられる農産物の国際価格を知って出荷調整し、利益をあげるようになっているところもある。うまくネットワークが広がれば、次の段階のテレビを目指す。先進国では「古い」メディアとまでいわれるが、まだまだ社会には不可欠な情報手段だ。

教育も、医療も、社会の仕組み、政治の民主化も、正しく、役に立つ情報がどれだけ手に入るかにかかっている。IT革命に取り残されていく人たちのことを忘れてはいけない。