NHK国際放送局長 今井 義典(第2503号・平成16年12月20日)
大災害ではわずかの差で生死が分かれる。その一つが「情報」だ。2004年は災害の多い年だった。中でも10月23日に発生した新潟中越地震と、その直前に日本列島を縦断した台風23号には、「情報」について改めて考えさせられた。
地震では災害の全体状況をどれだけ早く把握できるかが、その後の救難活動の成否の鍵を握る。阪神・淡路大震災から10年、あのときの反省から、全国のほぼすべての市町村に通信衛星を使った防災行政無線まで設置され、各市町村の震度データが間髪を入れずに、県庁経由で気象庁に集まるようになった。ところが今回は揺れの激しかった県内19の市町村で肝心の情報システムが作動せず、発生時の震度情報が県庁や気象庁に届かなかった。原因は停電、「非常電源装置」も役に立たなかった。携帯電話もつながらなかった。全国の携帯電話は8500万台、安否を気遣う電話が殺到したうえに、基地局の多くがこれも停電で使えなくなったのだ。このため事態の掌握に手間取って、山古志村などでは、住民の安否の確認や救出活動が遅れてしまった。「情報」システムは非常時にこそ活かされねばならない。
一方台風23号で市街地の9割が水に浸かった兵庫県豊岡市では、市内の河川の堤防が決壊する5時間前に、市から避難勧告が出され、各家庭には屋内スピーカー式の防災無線で伝えられた。しかし残念ながら避難したのは1割だけ、多くの人が逃げ遅れて自宅に取り残された。
私たちは「自分のところは大丈夫」そう思いがちだ。ではどうしたら危機意識を共有して行動に移すことができるのか。それには「日本に住む限り、いつでもどこでも災害が来る」と誰もが自覚することが第一だ。一方自治体も緊急情報の把握と同時に、住民への「呼びかけ」をより具体的な、切迫感のある表現に改めるべきだ。水害や火山の噴火などに備えて自治体が作る「ハザードマップ」(防災地図)も極めて有効だ。問題は防災地図が住民一人ひとりの防災対策と避難行動につながる具体的な「情報」として行き渡っていないことだ。
いざというときに地域ぐるみで行動を取り、犠牲を最小限にとどめるには、平時の準備と心構えしかない。山古志村の長島村長の「どんなときでも自分が村内のすべての情報を掌握できるように整備しなければ」という述懐が耳に残る。