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若者に息吹を

印刷用ページを表示する 掲載日:2003年7月14日更新

NHK国際放送局長 今井 義典(第2446号・平成15年7月14日)

スコットランド北西部のスカイ島は海と山が美しい。沖縄島ほどの広さで、人口は1万、夏の間の観光を除けば漁業と酪農が中心の貧しい島だ。

この島に3年前、宿泊研修施設「コロンバ1400」ができた。大学生や企業の研修グループが入れ替わりやって来るが、その中に時折変わったグループが混じる。見るからに「落ちこぼれ」の若者と、企業の幹部の組み合わせだ。彼らはグループ討論をするかたわら、一緒にハイキングやカッター訓練をしたり、手工芸品製作の手ほどきを受けたりして、人間と自然に親しみながら8日間寝食を共にする。

少年たちはここから南に300キロ離れた都市、グラスゴーのスラム街のいわば非行少年だ。45才以下の失業率が42%、中学卒業程度の学力があるのは全体の11%という町に育った。多くは麻薬や窃盗で警察の補導歴まである。一方大人の方は企業の重役や人材育成担当の幹部だ。少年たちはここで、生きることの意味、社会参加の重要性、働くということ、争いの収め方、チームワークとリーダーシップなどについて生まれて初めて真剣に考え、試す機会を得る。一方企業幹部は一番難しい世代の、一番の問題児に接することによって、人を育てることの難しさや意味を体験する。この得がたい経験によって、少年たちは人生に希望を見出し、大人たちはリーダーとして進化する。

研修の参加費は1人当たり20万円、多くの場合企業からの寄付と人材提供、それに公的機関などからの委託で賄われる。つまり独立採算の「NPO型企業」なのだが、2年目から採算に乗るようになった。これまでグラスゴーから来た少年は114人、このうち86%が仕事を得たという。「人間には本人が見逃している素晴らしい潜在能力がある」というのが「コロンバ1400」のモットーだ。

日本に急増している、働かない、仕事を探さない、学校にもいかない、家事の手伝いもしない「無業者」を救うには、コミュニティと企業の「自分の問題」としての知恵と努力が望まれる。