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究極の住民主体の地域づくり―『やねだん』に学ぶ

印刷用ページを表示する 掲載日:2012年1月30日

作新学院大学総合政策学部教授 橋立 達夫 (第2787号・平成24年1月30日)

鹿児島県鹿屋市串良町柳谷集落、愛称「やねだん」。人口約300人、その4割が高齢者という、高齢過疎化が進む全国の農山村と同じような地域であった。その地域が16年前、地元出身の豊重哲郎さんを公民館長に迎えたことから次第に変貌し、今や、「地域再生のお手本」として全国に知られるところとなった。『住民にボーナスが出る集落』ということでマスコミにもしばしば登場する。

地域づくりへの住民の関わり方として1960年代に現れた「住民参加」は、やがて行政の中に取り込まれ形骸化していった。そこで生まれたのが、計画段階から住民が加わって事業案を考え、その実現に向けて協力して働くという「参画協働」である。ワークショップ型の会議の手法の普及定着と相まって、今、全国に参画協働の活動が広がっている。そして参画協働の先にあるのが「市民自治」の取組みである。本当に自分たちのやりたいことをやろうと思ったら、行政に頼らず財源から自分たちで確保して行わなければならないことに気付き、実践したこと。その意味でやねだんの活動は究極の住民主体の地域づくりということができる。

やねだんは今も進化し続けている。「(コミュニティ・ビジネスによって得た)剰余金をボーナスとして配るよりも、もっと社会に役立つことやみんなで楽しめることに使って欲しい。」と住民が辞退し、お年寄へのシニアカーのプレゼント、海外研修旅行、子供たちの補習教育、そして東日本大震災の被災地支援などが実現した。また、文化こそ地域再生の力の源泉であるという信念の下に、芸術家を移住者として招き、Iターン者も受け入れて人口の増加を実現させている。子供たちの目は輝いている。

やねだんの活動を目指すべき地域の将来ビジョンとして見ることにより、後に続く地域は、たとえそこに至る道筋は異なっても、正しい方向性を保つことができるであろう。全国のまちづくりリーダーは、是非、やねだんの活動記録DVDを入手し、繰り返して見ていただきたいと思う。