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民(たみ)の時代の夜明け

印刷用ページを表示する 掲載日:2010年7月12日

作新学院大学総合政策学部教授 橋立 達夫 (第2726号・平成22年7月12日)

参院選の告示日の朝にこれを書いている。これが皆様のお目に留まる頃にはもう選挙の結果が出ているのであろう。私は、今回の選挙が日本の民主主義の行方を大きく左右するものになると思っている。平成維新と言われた昨年の衆院選の結果を継承できるか否かがこの選挙にかかっているからである。

75年前に、島崎藤村の小説『夜明け前』が完結した。明治維新前後の日本の社会の変動を、徹底的に民(たみ)の視点から捉えた小説である。長い封建時代が終わって、ようやく民の時代が来るとの期待に胸を膨らませていた主人公青山半蔵は、やがて幕府に代わって国を治める官僚政治の圧迫と戦うことになり、ついには狂気に触れて命を落とす。『夜明け前』という題名は、黎明期の日本を描いたからというよりも、明治維新以来50年を経た昭和の時代に入ってもなお、民の夜明けが来ていないという藤村の思いが込められているように見える。

そして前回の衆院選の結果が平成維新と言われたのは、『夜明け前』の発刊からさらに70年以上を経ても維持されてきた、官僚が政治を動かすという国の体制がようやく変わるということに対する期待であったと思われる。

ところが、民主党政権が発足して9カ月で、国民の支持を得られないという理由で、政権のトップの交代があり、今回の選挙に突入したわけである。マスコミがネガティブ・キャンペーンを行い、その効果を測るためのような世論調査による内閣支持率の低下を発表するという、いわゆる「劇場型政治」の問題点を、国民はしっかりと見極めなければならないと私は思う。歴史の転換点に混乱が生じるのは無理のないことであるが、大きな歴史の流れを読み、新しい社会を創るという力の根源は民にあるということに目覚めなければならない。それがまさに民の時代の『夜明け』である。

まちづくりの世界では、すでに多くの地域で、この『夜明け』を経験している。まさに「地域自治は民主主義の学校」である。