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第一義の精神

印刷用ページを表示する 掲載日:2009年1月12日

作新学院大学総合政策学部教授 橋立 達夫 (第2664号・平成21年1月12日)

この新春は新潟県民やご出身の方々にとって歓び一入であろう。NHK大河ドラマ『天地人』が始まった。主人公直江兼続の生地である南魚沼市や上越市の方々の14年越しの誘致活動が実ったのだと伺う

兼続は幼い時から上杉謙信の下で育てられ、謙信の「義」の精神を最も良く受け継ぐ者として、謙信亡きあと若干22歳上杉家執政の職に就いた。豊臣秀吉をして「この男に政りごとを委ねたい」と言わしめ、また徳川家康を心の底から恐れさせたといわれる。兜の前立に慈愛の「愛」の一文字を掲げ戦った戦国末期の武将であり、また当代一流の文人でもあった。

その兼続は「国の成り立つは民の成り立つを以て為す」という言葉を残している。国民の生活が成り立っているという状況の上に初めて国が成り立つということである。この精神の下に、上杉は織田信長や徳川家康を討つ機会があったにもかかわらず、ここで戦えばようやく成し遂げられそうな天下統一を阻むことになり、民が待ち望む泰平の世の実現が遠のくと危惧し、敢えて戦いを選ばなかったといわれる。

民の生活を第一義とするという考えは、いつの時代にも国政に通じるべき考えであり、また私たちが取り組んでいる住民の視点で地域自治を考えるという、今日のまちづくりの考えにも通じている。

私は東京で生まれ育ったが、両親は新潟県出身であった。父は上杉謙信の座右の銘であった「第一義」という言葉をこよなく愛した。生前の父と「第一義」について話し合うことはなかったが、暮らしの端々にその精神を感じさせる人であった。そして今、前述の兼続の言葉を介して、この精神が現在の私のまちづくりの仕事の中にも流れ込んでいることを感じ、胸を熱くしている。400年も前の武将の精神が何世代にもわたって脈々と受け継がれてきたということに人間の不思議を感じざるを得ない。

今年はこの義と愛の精神が見直され、国際社会の中にも広がっていくことを願ってやまない。