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至福の時

印刷用ページを表示する 掲載日:2008年5月26日

作新学院大学総合政策学部教授 橋立 達夫 (第2640号・平成20年5月26日)

「(まちづくりは)住民一人ひとりが前向きに生きるという状況をつくるということなのですね。」。

この言葉を聞いて私は涙が出るほどうれしかった。福島県三島町は、30年前から『ふるさと運動』で名を馳せ、常にまちづくりに力を注いできた町である。しかしこの間、町の人口は半減してしまった。町は5年前の総合計画で『エコミュージアム構想』を打ち出し、若手の職員と町民がプロジェクトチームを作って、再活性化の方向を模索してきた。

東北電力の「まちづくり元気塾」事業のチーフ・パートナーとしてこの町を訪ねた私は、「エコミュージアムは町の中の当たり前の生活の中にある芽を見出し、それに価値をもたせること」と考えた。そこで集落の宝探しや地域の食材を使った料理のワークショップを行うなど、日常の生活の延長上でできる実践的な活動を元気塾の中心に据えた。

「地域の元気は住民の生活のベクトルの総和である。たとえ一人ひとりがバラバラに生活しているように見えても、誰にでもまちづくりのためにできることがある。一人ひとりがそれに気づき、少し生活を変えることで町は動く。10人に1人が変われば町は大きく動く。」と言いながら。

こうして迎えた元気塾の最終回は「冬の食彩ミュージアム」と名づけ、熊本県人吉市の地産地消レストラン「ひまわり亭」代表の本田節さんをパートナーにお迎えして行われた。地域の食材を用い町の女性たちが頭と腕をふるって作った料理を広く町民で楽しむという、町民主催の大イベントである。

その準備の打ち合わせの中で女性リーダーが発言されたのが冒頭の言葉である。まちづくりの真髄を突き、住民と行政の間の壁が溶け出した瞬間であった。さらに二人の女性が、「ようやく自分のやりたいことに近づいてきた」と発言された。地域の女性の中に地域自治の底辺を支える充実した力が秘められていたということに驚くとともに、まちづくりの世界に関わって来てよかったと思う至福の時であった。