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緑と田舎に教わって

印刷用ページを表示する 掲載日:2013年6月3日

フリーアナウンサー  青山 佳世(第2842号・平成25年6月3日)

木々が芽吹き、花々が咲き誇り、生命の力強い息吹を感じる季節です。水を張った田んぼに周りの山々が映り、光が差し込んで農作業をする人々が シルエットとなって浮かび上がります。美しい日本の風景です。平野に広がる水田や、山間の棚田の風景は、日本を代表する原風景として、観光にも大きく 貢献しています。単に景色がいいのではなく、そこに人が暮らし、農業がきちんと成り立っている証しです。日本の原風景を過去のものとするのでなく、 いつまでも元気な姿で残していきたいものです。

アベノミクスの明暗も取りざたされていますが、多くの人々の目が輝きを取り戻したのは事実です。政策頼りでなく、人間の前向きなやる気が何か成果を 出すことは間違いないでしょう。

新緑の中、明るい声がこだましてきました。鳥取県智頭町の「森のようちえん まるたんぼう」の36人の子供たち。子供たちを自然の中で育てたいという 県職員だった西村さんの思いと、森林を活用したいという町の考えが一致して、五年前に始まった取り組みです。毎日森を教室に過ごします。 森の中を駆け巡り、木を登り、トンネルも格好の遊び場です。雨の日も雪の日も子供たちは風邪をひく心配なんて何のその、一日屋外で過ごします。 ある日の一コマ、雪の中を歩く子供たちを追いかけていくと、ズボリ。雪に埋もれて動けなくなった私に駆け寄って、引っ張り上げながら「大人は重たいから 大変だね」と、カラリと笑う子供たち、なんと逞しいことでしょう。

思わず都会人間丸出しの質問をしました。「小学校に上がる準備は大丈夫ですか」「今は特別なことはしていませんが、きっとこの子たちは大丈夫でしょう」 と西村さん。そう、多分大丈夫なのでしょう。生きる力を持った子供たちなら、どんな状況に遭遇してもきっと乗り越えられる……直感的に納得しました。 自然の中で逞しく子供を育てたいと、愛知や大阪、群馬から移り住んでくるという親たちがいることにも安堵。すべてを大人が教えず、子供たちが考えるまで 待つ。子供の能力を信じることが大人に必要なのだと西村さんは言います。

農村や森林は、人間の原点を築きあげる一番のせんせい。そのなかでしっかり子供を見守ることのできる大人は、今や貴重な存在になりつつあります。 子供も大人も、森林や農村から教わる機会をもってもらいたいものです。