早稲田大学政治経済学術院教授 稲継 裕昭(第3324号 令和7年6月30日)
富山県の東端にある人口1万人の朝日町。町で一番大きなショッピングセンター「アスカ」入り口に、ポイント端末が置かれている。そばで観察していると、多くの人がそこを通るたびに「マイナンバーカード」を出して、端末に『ピッ』とそのカードを当てている。お年寄りも働き盛りの人も、ショッピングセンターを訪問した多くの人が、端末にマイナンバーカードをかざしているのだ。
これは同町が推進するLoCoPi(ロコピ)」と呼ばれるポイント・地域通貨事業の一環だ。LoCoPiは「local community pass&info」に由来する造語で、マイナンバーカードを活用した地域活性化の取組である。町内で各種イベントへの参加、町内のあちこちに置かれている端末にタッチすることなどで、ポイントが貯まっていき町の特産品をはじめとしたさまざまなモノが抽選で当たる仕組みとなっている。また、お金をチャージして交通チケットや地域通貨として使うこともできる。地元の店舗の多くが加盟店となっている。
特筆すべきは、この制度がマイナンバーカードと連携している点にある。従来の地域ポイントカードと異なり、新たなカードを発行する必要がなく、既に持っているマイナンバーカードがそのままポイントカードとして機能する。これにより、カード発行コストの削減や、利用者の利便性向上につながっている。
朝日町のDXが注目される理由は、単なるデジタル化ではなく「住民が主体となる」点にある。博報堂との協働により、まず住民のニーズや行動パターンを徹底調査したうえでシステムを構築した。町民インタビューから明らかになった「地元への愛着はあるが、買い物や行政サービスで不便を感じている」という課題に対し、日常生活の動線上にポイント端末を設置し、「ついで」に貯まる・使えるよう工夫されている。
LoCoPiの特徴は、3つの好循環を生み出す点だ。地域内消費を促進する「経済の好循環」、デジタル手続きの利用促進による「行政サービスの好循環」、そして地域活動参加を促す「コミュニティの好循環」である。町が開催する介護予防教室やスマートフォン教室にコミュニケーションアプリLINEから参加申込みすることでもポイントが付与される仕組みにより、デジタル活用が苦手な高齢者もポイント目当てに利用するようになり、結果的にデジタルリテラシー向上にもつながっている。
人口減少と高齢化に直面する日本の地方自治体にとって、マイナンバーカードを「お役所のカード」から「生活に役立つカード」へと転換させた朝日町の取組は示唆に富むモデルケースといえるだろう。