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「一芯二葉」こだわりのお茶を、再び鉄道で

印刷用ページを表示する 掲載日:2025年6月16日更新

フリーアナウンサー 青山 佳世(第3322号 令和7年6月16日)

 緑の芽吹きが眩く、目に優しい淡い輝きで心を癒してくれます。綺麗に整ったお茶畑の畝で一番茶の摘み取りをするシーンは、日本を代表する美しい風景です。20年以上前に、手摘み、美味しいお茶を作るための揉み方、お茶の淹れ方を教わったのが今の川根本町のお茶農家さんでした。今はどうなっているのでしょう。

 今年の5月13日、標高600m、町の中でも1番高い場所にあるお茶畑で、手摘みの作業が行われました。この道数十年のベテランの14人の摘み子さんが畝の間に並んで、実に鮮やかな手つきで摘み取っていきます。あまりに速いので、一見無造作に摘んでいるかのように見えますが、「一芯二葉」―お茶の中心にあるまだ開いていない芽とその下の二枚の葉っぱを選び、指でなぞるように摘んでいきます。まあ速いこと速いこと!こどもの頃からお茶の摘み取りをしているので、体に染み付いているのですね。

 川根のお茶農家さんもお茶刈り(機械で刈り取ること)を取り入れて収穫の効率化を図りながら手摘みの文化と伝統、そして何より美味しく上質なお茶作りを大切に守っています。

 摘み取った茶葉は柔らかく、見た目にも均質です。時間が勝負の手摘みには大勢の人手が必要で、その熟練の技は一朝一夕では伝承できません。手摘みの作業を拝見するといかに手間暇かけて丁寧なお茶を作っているか、改めてその価値を実感します。

 静岡県の中でも広い面積を有する川根本町は、SLで人気の大井川鐵道の沿線にあります。南アルプスの入り口にあり、そこから流れる大井川の美しい自然景観、エメラルドグリーンのダム湖、そして川根茶のお茶畑、飽きることがありません。途中には日本で唯一のアプト式で急勾配を上り下りする区間があります。その先のダム湖の真ん中にある鉄道でしか行くことができない「奥大井湖上駅」は憧れの場所となっています。

 ところが、2022年9月の台風15号による豪雨で大井川鐵道本線は大きな被害を受け、現在も川根温泉笹間渡駅から千頭駅までの約20㎞が不通となっています。その間の被災箇所は24ヵ所、分断されたところはバスの代替輸送が行われています。復旧には約21億円が必要と見込まれていますが、今年の3月に静岡県と沿線自治体は復旧費用を支援することで合意し2028年度全線復旧をめざすことになり、苦難はありますが光は見えてきました。SLに乗るもよし、走る姿を見るもよし、何よりも美しく続く車窓の風景があります。「『日本で最も美しい村』連合」「ユネスコエコパーク」に認定されているように、自然と人々の営みが織りなすハーモニーが次世代に引き継がれますよう、鉄道が全線走る風景を1日も早く見たいものだと願っています。