明治大学農学部教授 小田切 徳美(第3302号 令和6年12月2日)
「二地域居住」という言葉に出会う機会が増えている。
国土交通省の調査(2022年)によれば、こうした行動をとる者は、全国の18歳以上居住者の6.7%(推計701万人)を占める。そして、その目的(複数回答)は、「家族又は親族等と交流するため(介護を含む)」(36.2%)、「週末又は長期休暇に田舎や郊外など別の地域で暮らすため」(29.8%)、「趣味や娯楽活動を楽しむため」(22.4%)のほか、「テレワークのため」(11.2%)も見られる。
このように、二地域居住は予想より分厚く存在し、また多様である。調査では、二地域居住をしていない者の今後の意向も調べているが、27.9%が関心を持っている。条件しだいでは、二地域居住は急速に増える可能性があろう。
したがって、地方部の自治体はこのようなライフスタイルと向き合うことが必要になり始めている。さまざまな論点があろうが、さしあたり次の2点を指摘したい。
第1に、二地域居住者と地域コミュニティの関係である。両者に連携がなければ、別荘地のように、居住者は農村景観や環境を消費し、ゴミ問題等で地域に負荷をかける存在になってしまう。しかし、適切なつなぎができれば、農作業を含めて、担い手不足を補完し、さらに地域の内発的発展を誘発する重要な人材となりうる。一部の地域では、中間支援組織の介在により、若者の二地域居住希望者が地域課題の支援に向かい始めている。
第2に、現代では「都市と農村の分断」が進んでいる。グローバリゼーションのなかで、企業活動からのみ国土を捉え、農村を不要とする「農村たたみ」論が頻繁に登場している。それに対して、都市と農村を往還する二地域居住者の一部は、両者を結び、共生に導く役割を果たしうる。
それに関わり、二地域居住者の増大を意識して、各所で提案されている「ふるさと住民登録制度」の意義は大きい。二地域居住を含めた応援者(関係人口)が特定化されるからである。さらに現住所地だけでなく、関わる特定の自治体に住民税の一部を納税するような仕組みができれば、税の新しい地域再配分が行われることを意味する。制度設計には多くの論点はあるが、都市・農村共生の持続化を支える仕組みとなることも期待される。
このように、二地域居住をめぐる議論は、国土のなかで農村をどのように位置付けるのかという大きなテーマにつながる。今後のさらなる活発化を望みたい。