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選ばれる地域?

印刷用ページを表示する 掲載日:2024年10月28日更新

法政大学名誉教授 岡﨑 昌之(第3299号 令和6年10月28日)

 外国人労働者の受入れを巡って、日本は“選ばれる国”になろう、といった主張をよくみる。入国後の日本語教育の充実や日本での暮らしやすさを整えようと、といった内容だが、違和感を覚えるのは私だけだろうか。もちろん海外の優秀な人材が、日本へのリスペクトを持って、互いに切磋琢磨しつつ、日本にいい意味での多様性を生み出してくれることには大賛成だ。だが入国後の日本語教育の充実までが、選ばれる国としての責務や要件だろうか。

 “選ばれる地域”になろう、といった主張も見受けられる。都市部から地方への移住希望者に対して、わが町や村では、こんな住宅を用意しています、移住支援金を給付します、移住コーディネーターが何でも相談にのります、といった呼びかけや案内だ。何だか高度成長期の頃の観光地が、外から来てくれる客に、地元とは縁もゆかりもないマグロの刺身やエビの天ぷらをだして、もてなしていた頃の、外部依存型観光地のことを思い出すのは、考え過ぎだろうか。

 はたして移住希望者もそうしたことを望んでいるだろうか。全国過疎地域連盟の「移住受入施策・体制に関する調査」(令和5年度)でも、「働く場や住宅も大切だが、移住者を受け入れ、外からも学ぼうとする地元住民の度量の深さに感動した」とか「集落での農業の厳しさを親身に教えてくれた」といった声を多くの移住者から聞いた。

 移住者に選ばれる地域をめざす前に、地域にとって本当に必要な人材は誰かを考えるべきではないか。その地域を愛し、地域に溶け込み、まちづくりに貢献し、ぜひ居て欲しい人をどう選ぶかを真剣に考えていくことこそ重要だ。地域おこし協力隊の活動例をみても、成功しているのは、まずは地元の現状と課題をきちんと把握し、その解決に資する的確な人材を受け入れ、地域社会の後押しを得て、隊員を支援しているケースが多い。

 全国の町村は、世界に誇りうる文化や歴史、四季折々の多様な食、それらを体現した日々の豊かな暮らしに満ちている。観光客や移住者に消費されるのではなく、プライドに溢れた懐の深い町や村であって欲しい。