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「豊か」な暮らしを享受できる地域

印刷用ページを表示する 掲載日:2024年9月30日更新

東洋大学国際学部国際地域学科教授 沼尾 波子(第3295号 令和6年9月30日)

 2021年に出された国土交通省「企業等の東京一極集中に関する懇談会とりまとめ」のなかに「都道府県別の経済的豊かさ」という興味深い資料がある。

世帯の可処分所得(二人以上勤労者世帯)の平均値を都道府県で比較すると、高い順に、富山県、福井県、東京都が続く。ところが平均値ではなく中央値(上から40~60%の世帯の値)を取ると、上位3県は富山県、三重県、山形県の順となり、東京都は12位まで下がる。

 さらに、食糧費や家賃、光熱水道費などの基礎支出の水準をみると、東京都の値が最も高い。その結果、可処分所得と基礎支出の差額を比較すると、東京都のランキングは42位まで下がる。

 この数値には単身世帯や経営者等が含まれていないなど留意すべき点はある。だが、ここから言えるのは、東京には稼げる機会はあり、高額な所得を稼いでいる人々はいるが、中間層の世帯において、可処分所得は必ずしも高いわけではない。加えて家賃や物価が高いことから、地方圏と比較して、余裕のある暮らしができるとは限らないということである。最近では農産物の価格も上昇、地震や豪雨災害への備えから米を買う動きも加速し、スーパーには軒並み米がない状態が続いた。衣食住の安定的確保を考えると、地方圏での暮らしの方が魅力的といえるかもしれない。

 いっぽう、医療や教育などのサービスを考えると、東京には多様な機会がある。また、地方圏から東京圏に移り住んだ女性は、魅力・利便性・自由を求めて東京圏に移り住んでいるとの調査結果もある。充実したサービスがあること、そして多様な価値観が許容され、選択肢が多いことが東京の良さといえるかもしれない。

 国土形成計画では、「場所に縛られない暮らし方・働き方による地方への人の流れの創出・拡大を図ること」や、「若者世代や女性に開かれた魅力的な地域づくりを推進すること」がうたわれている。政府は、広域的地域活性化のための基盤整備に関する法律の一部を改正、二地域居住の促進に向けた体制づくりも進められている。

 地方圏に若い世代を呼び込むには、稼げる仕事があることも大切だが、そこに豊かな関係性や、創造的な事業活動等の展開を支える文化があるかどうかが問われていると感じる。受入れ環境整備にあたり、クリエイティブな仕事と暮らしの実現を応援する職場づくりや起業支援、住まいやコミュニティづくりの発想が求められているように思う。