法政大学名誉教授 岡﨑 昌之(第3286号 令和6年7月15日)
地方都市や農山漁村で暮らしてみたいと考える若者をいかに受け入れるか。高齢化や人口減少が進む過疎地域の集落に、新しい担い手として外部人材をどう迎えるか。移住者の受け入れは過疎市町村にとって大きな課題だ。受け入れについては、住む場所と働く場の確保がもっとも重要だとされてきたが、その様子が少し変化していることが、全国過疎地域連盟の「過疎地域の移住者受入施策・体制に関する調査研究」(令和6年3月)で分かってきた。もちろん住居と就労の場の重要性は高いが、都道府県と過疎市町村のアンケート調査、現地ヒアリング調査では、住居と就労の場よりも、「移住後の相談への対応」や「地元住民との交流支援」が定住につながった、という結果が出ている。
この調査で訪れた高知県梼原町では、町と移住定住コーディネーターで調査したところ、町内に200軒の空家があることを確認。空家は地域の有効資源と位置づけ、可能なものから改修に着手した。改修費用は国の支援事業、県の補助金、残り1/4の町負担分を入居する移住者の家賃、約10年分でまかなう。こうした取組に住民も安心感をもち、約60棟の空家改修が進み、すべて移住者に貸し出されている。
こうした住居への対応も重要だが、町の移住定住コーディネーターの片岡幸作さんは「仕事や住宅よりも、志と受容力をもった地域の人たちの存在が大事」と、24時間、土日祝日なく、移住希望者、定住者、地元住民からの相談に応じている。町でも地区代表や各種団体、教育関係者からなる「くらそう梼原でサポート町民会議」を組織し、地域の側から支援にあたっている。こうした地道な取組で、梼原町は高知県内でも有数の移住者受け入れの町となっている。
「消滅可能性自治体」とか「自立持続可能性自治体」などと、まるで勝ち組、負け組のように、全国の自治体を分断するようなことは決してやるべきではない。ましてや梼原町をはじめとして、さまざまな努力をし、移住者を受け入れ、こうした人材とともに何とか地域や集落を維持しようと頑張る現場の人たちの努力に対して、「人口という限られたパイを奪い合うゼロサムゲーム」などと断ずるのは論外である。