農業ジャーナリスト・明治大学客員教授 榊田 みどり(第3280号 令和6年5月20日)
福岡県大木町の「道の駅おおき」に、行列のできる人気レストラン「デリ&ビュフェくるるん」がある。
資源循環型のまちづくりを進める同町のシンボル、地産地消にこだわり味にも定評のある料理…と、人気の理由はいろいろあるが、このレストラン、役員やスタッフが全員女性という点でも注目されている。
なぜ女性だけなのか。同レストラン運営会社の代表取締役・松藤富士子さんに理由を聞いたことがある。
「別に『女性だけ』にこだわり続けたいわけではないんです。最終的には男女関係なく、本人の能力や志に応じて働く会社になればいい。ただ、残念ながら、まだその時期ではないのかなと思ったんです」というのがその答えだった。
最初から役員やスタッフに男性を入れると、どうしても男性が主導権を持ち、働き方も男性の価値観に女性が合わせざるを得なくなる。
例えば、懇親のための飲み会を欠席する。子供の授業参観や親の介護で休む。そんなことが重なると「女性は仕事より家庭のほうが大事」と男性の価値観で判断され、仕事の評価は自然に低くなる。
出産・子育て・介護等の負担から、女性だけが家庭の事情でライフステージの変化を余儀なくされること自体も問題だが、その現状下、男性社会の価値観の下で評価されるために、子供を持たない、結婚しないという選択をしてきた女性は少なくない。一方で、出産・子育てしながら、男性の価値観が主流のビジネス社会で働き、結局、心が折れて仕事をやめた女性も多い。
そんな働き方・働かせ方自体を見直すべきではないか。まずは女性100%で始め、それで経営が回るような体制を作りたいと考えた松藤さんは「男性を入れるのはそれからだと思ったんですね」と言う。実際、このレストランは、各スタッフの事情に合わせた柔軟な働き方を尊重しながらも順調な経営を続けてきた。
「女性活躍推進法」の施行から8年が過ぎ、法改正を経て少しずつ前進しているものの、今もまだ、働く女性の多くが今の環境に息苦しさを抱えていると感じる。
「人材を確保できない」と嘆く前に、まずは、働きやすい環境になっているか、働きにくいとすればその根底にある原因は何か、組織トップの方々には考えてほしいと思う。