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地方における食品製造業

印刷用ページを表示する 掲載日:2024年4月22日更新

東京大学名誉教授・福島大学名誉教授​ 生源寺 眞一(第3278号 令和6年4月22日)

​ 2022年度まで6年間勤務した福島県では、さまざまな出会いを体験した。そのひとつが食べ物のコンクールであり、4回にわたって審査委員長を拝命した。コンクールの最終段階では10点ほどの優れた品物が選ばれ、最優秀の食品には「ふくしま満天堂グランプリ」の称号が与えられる。惣菜や麺類や和菓子・洋菓子など、幅広い分野が競うわけだが、福島県産の農林水産物を活用していることが応募の条件である。

 毎年多くの手があがるのだが、候補者が県内各地に立地している点も印象的だった。大半の事業所は小さな規模であり、実質的に家族経営のケースもある。けれども新たな材料への挑戦や加工手法の新機軸、さらにはパッケージのデザインの工夫など、製品の改良に投じられるエネルギーは並大抵ではない。ただし、小さな事業所には研究開発部門が存在するわけではない。毎日の作業のあいまに粘り強い創造力を発揮しているといったところだろうか。

 福島県だけではない。地方では産業に占める食品製造業の割合が高く、それぞれに地元の農産物や海産物を活かした取組に余念がない。このように地場産の材料による食品製造である点は、都市周辺に立地して海外の農産物にも依存する大手の食品メーカーとの違いだと言ってよい。近隣の農業や漁業を支える役割も果たしてきたわけである。もちろん、食品製造の事業所自体も地方経済の重要な柱である。

 雇用機会の観点から眺めてみるとき、食品の製造業には重要な特徴がある。それは景気の動向に左右されにくい安定性にほかならない。食料は絶対的な必需品であり、高齢化が進むことで食の好みが固定化している面もある。食品にあっては、不景気だから買うのはしばらく控えるといった行動をとることが困難なのである。個々の事業所は零細であっても、雇用機会として揺れの小さい産業である点で、食品製造業は町や村の経済と社会をしっかり支える大切な領域なのである。もっと注目されてよいと思う。