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歴史文化の地域計画

印刷用ページを表示する 掲載日:2024年3月4日

國學院大學教授​ 西村 幸夫(第3271号 令和6年3月4日)

 2018年の文化財保護法の改正によって、自治体の歴史文化のマスタープランとでも言うべき文化財保存活用地域計画の制度が生まれたのをご存知だろうか。計画のタイトルだけを見ると点在する文化財をひとくくりにしただけのような印象を受けるかもしれないが、実際は、未指定の文化財まで含めた幅広い計画で、法定のマスタープランにここ10年間の実施計画が加わったような、これまでにない面的計画なのである。

 昨年末の段階で、全国139の市町でこの地域計画が文化庁の認定を受けている。さらに同数以上の自治体が策定に向けて動いているという。歴史文化に関心の高い大規模自治体が多くを占めているが、北の北海道今金町・中標津町から南の香川県小豆島町・愛媛県松野町まで、全国の22町においても計画策定を終え、文化庁の認定を受けている。

 この地域計画の特色は、地域の歴史文化をいくつかの物語から構成し、それらを地図に落とし込んで、土地の物語として描いている点である。たとえば、どんな田んぼでも灌漑の長い歴史があるので、用水の建設や維持管理の種々の物語をもとに地域を読み解くと、どんな農村においても歴史文化の計画を立てることができると言える。

 また、田舎の美しい田園風景は、人と自然が造り出した文化的景観であることは疑いない。文化的景観は、近年では文化財のひとつの類型としてひろく認められている。2023年9月現在、全国で72箇所が重要文化的景観として国の選定を受けている。この中には、アイヌの伝統と近代開拓による沙流川流域の文化的景観(北海道平取町)、越前海岸の水仙畑(福井県福井市・越前町・南越前町)、智頭の林業景観(鳥取県智頭町)、樫原の棚田及び農村景観(徳島県上勝町)、四万十川流域の文化的景観(高知県津野町・梼原町・中土佐町・四万十町・四万十市)など農山村の景観が中心となっているものも少なくない。

 田舎の美しい田園風景はそれ自体、未指定だとしても文化財のひとつであるとも言える。――そう考えると、町村には未指定の文化財があふれていると見ることもできる。そしてそれらをもとにした魅力的な歴史文化のマスタープランは十分に策定可能なのである。