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新たな国際観光ルートの誕生 ~「黒部宇奈月キャニオンルート」始動

印刷用ページを表示する 掲載日:2024年2月12日更新

國學院大學 観光まちづくり学部 教授 梅川 智也(第3269号 令和6年2月12日)

​ 今年の大いなる楽しみの1つは、6月に予定されている「黒部宇奈月キャニオンルート」の一般公開だ。1971(昭和46)年6月、20年の歳月をかけて開通した“雪の大谷”で有名な「立山黒部アルペンルート」から半世紀である。

 「立山黒部アルペンルート」が北アルプスの雄大な山岳景観を楽しむ観光(サイトシーイング)であるのに対して、「黒部宇奈月キャニオンルート」は国土開発のための水力発電やダム建設の歴史などを実体験できる文化的な観光の色彩が強い。様々な要素を併せ持つ今日的な観光の姿ともいえるだろう。明と暗、対照的な2つの国際観光ルートがついに誕生する。

 新たなルートは、宇奈月温泉から始まる黒部峡谷鉄道の終点・欅平(けやきだいら)と黒部ダムを結ぶ約18㎞のルートで、かつて日本電力㈱や関西電力㈱が工事用ルートとして整備したものであり、現在でも現役で使用されている。2018年、富山県と関西電力㈱との間で締結された「黒部ルートの一般開放・旅行商品化に関する協定」に基づき、徹底した安全対策工事がなされた。両者の努力の賜物といえる。

 秘境といわれた黒部渓谷で初めて電源開発の調査が行われたのが1917(大正6)年。最大の難工事といわれた黒部川第三発電所と仙人谷ダムの建設は1936(昭和11)年に始まった。吉村昭の小説「高熱隧道」に描かれた作業員に冷水をかけながら昼夜交代で掘り進める工事などに衝撃を受けたことを覚えている。こうした負の歴史も含めてトロッコやインクラインなどを乗り継ぎ、自らの五感で体験できることがこのコースの魅力である。

 これまでも関西電力が「黒部ルート見学会」として年間1,000名ほどを受け入れており、私も10年以上前に土木工学の先生方と見学したことがある。第三発電所で美味しいお弁当を頂いたことや途中の横坑から新田次郎の小説で映画の舞台ともなった剱岳が展望できたことは感動だった。

 今回の観光ルートの新しさは、キャリング・キャパシティー(Carrying Capacity)=環境容量の概念を導入していることだ。保護と利用のバランスを図るための適正な「入込のコントロール」こそがサステナブルツーリズムである。初年度は旅行会社の添乗員などを含め最大8,180人(年間10,000人程度)。一方で地域への経済的な裨益も重要で、宇奈月温泉や立山の室堂などでの宿泊商品も販売される。能登半島地震からの観光復興の契機となることを期待している。