ページの先頭です。 メニューを飛ばして本文へ
トップページ > コラム・論説 > 日本の「温泉文化」を世界に

日本の「温泉文化」を世界に

印刷用ページを表示する 掲載日:2023年10月23日

國學院大學 観光まちづくり学部 教授 梅川 智也(第3258号 令和5年10月23日)

​ 環境省によると、日本国内には2,894カ所(2022年3月末現在)の温泉地*が存在する。温泉所在自治体は1,447、源泉数は未利用も含めて27,915カ所に及ぶ。東京都心から地方都市、中山間地域、過疎地や離島まで全国で湧出し、日々、人々を惹きつけている。

 日本の「温泉文化」を、ユネスコの世界無形文化遺産に登録しようという動きが活発化しつつある。既に関連団体などによって全国推進協議会が設立されるとともに、(一社)日本温泉協会では有識者委員会を設置し、『「温泉文化」に係るユネスコ無形文化遺産への早期登録へ向けた提言(中間取りまとめ)』を行っている。

 無形文化遺産とは、口承、芸能、社会的慣習、儀式、祭礼、又は自然及び万物に関する知識、技能及び慣習など。世界の入浴文化では、フィンランドの「サウナ文化」が2020年に登録されたことは記憶に新しい。サウナはフィンランドだけでなく、北欧諸国やロシアなどに及び、今では日本でも人気アイテムとなっている。なお、2021年に登録された「ヨーロッパの大温泉保養都市群」は世界遺産であり、無形文化遺産とは登録の根拠となる条約が異なる。

 日本独特の「温泉文化」とは一体何であろう。都市内のスーパー銭湯や日帰り温泉施設から秘湯と言われる一軒宿、旅館・ホテルが集積した温泉街、さらに都市規模の温泉地など様々な空間タイプがあることか、それとも比較的ぬるい湯に水着を着て長時間浸かる欧米型とは異なり、40度以上の高温の湯に衣類を着けず首までゆったりと浸かる利用形態なのか、あるいは岩風呂、檜風呂など浴槽へのこだわりか、切り傷や腰痛、胃腸に効くといった効用・効能なのか、肌がすべすべになる美人の湯といった泉質の特徴なのか。

 全てとは言えないが火山の恵みが温泉だとすると、そこには噴火や地震など自然災害の恐れも危惧される。にもかかわらず、優れた泉質の温泉が湧出することで人々が訪れ、そこで経済的行為が発生する。観光資源に恵まれない地域にとっても、温泉があるだけで人々が集まる大切な地域資源となっていることも少なくない。日本人にとって古くからの風習である「湯治」も含めて、何が日本の「温泉文化」なのか、改めて国民レベルで考える好機となることが期待される。

 先日、タイを訪れる機会があった。バンコク市内には日本式の温泉が多数立地しており、聞けばもう20年以上前からであるという。草津の湯を世界に知らしめたベルツ博士を引き合いに出すまでもないが、意外に日本の温泉文化は世界に届いているのかもしれない。


*:宿泊施設のある場所