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人口減少問題の「適応策」

印刷用ページを表示する 掲載日:2023年10月9日

明治大学農学部教授 小田切 徳美(第3256号 令和5年10月9日)

 気候変動問題への対策には、「脱炭素地域づくり」などの「緩和策」と、高温耐性を持つ稲の品種改良などの「適応策」がともに必要なことはよく知られている。

 地方行政の焦点である人口減少問題にも同じことが言える。この場合、緩和策とは出生数や移住者の増加を促す取り組みであり、適応策は人口が減少しても持続的な地域をつくる挑戦である。この同時追求が重要なことは明らかであろう。

 ところが、そこでは、気候変動とは違って、適応策の議論は必ずしも十分とは言えない。振り返れば、代表的な適応策は市町村合併であった。人口減少や高齢化が政府による促進の理由の1つとされていた。また、最近では、「圏域単位での行政のスタンダード化」を提言した総務省・自治体戦略2040構想研究会報告(2018年)は、人口減少・高齢化等の「2040年頃にかけて迫り来る我が国の内政上の危機」の適応策を構想したものである。

 これらの例でも明らかなように、過去の適応策の議論と実践は、制度をめぐるものが中心で、しかも国主導で行われている。また、提起する当事者に、新しい制度を作り、動かすという意図があるためか、将来の危機を煽るような傾向も共通に見られる。

 つまり、今までの人口減少問題の適応策には、公-共-私の幅広いセクターの「地域社会の構想」を十分に意識したものは多くはない。地方の人口減少問題が、これだけ騒がれていながら、いまだに成熟した議論とは言いがたい。

 宮口侗迪氏(本欄執筆者、早稲田大学名誉教授)や筆者が提唱する「低密度居住地域構想」は、こうした状況の中で生まれている。いまよりも人口がさらに減少したレベルを想定しながら、その水準でも定住が持続できる仕組みを地域の中から作り上げていくというものである。その動きを「地域づくり」と呼び、具体的には地域運営組織の形成、地域内でのしっかりした人材育成、また地域外からの関係人口との協働等を提起している。それは単純な「現状維持」ではないため、地域が取り組む際のハードルは決して低くない。また、遠隔地医療や教育などにデジタル技術をどのように組み合わせるのかという課題の検討は残されている。

 しかし、従来の適応策が国からのトップダウンによる傾向が強いのに対して、この「低密度居住地域構想」はむしろ現場実践が先行している。先に、筆者等が唱えたとしたが、それは地域の実践から学んだにすぎない。

 こうした実践と議論をより進めることが、人口減少問題の対策の成熟化を導くのではないだろうか。