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政策の検証は?

印刷用ページを表示する 掲載日:2023年9月4日

東京大学名誉教授・日本農業研究所研究員​ 生源寺 眞一(第3252号 令和5年9月4日)

​ 食料・農業・農村基本法の見直しのプロセスが後半を迎えようとしている。昨年10月にスタートした食料・農業・農村政策審議会の基本法検証部会は、5月に公表した「中間取りまとめ」を軸に地方での意見交換会も実施してきた。一連の流れのベースには、基本法の施行から四半世紀が経過する現段階で、内外の情勢の変化を踏まえた改正が必要だとの判断がある。この判断は理解できるし、十分に議論が尽くされることも期待したい。そのうえで「中間取りまとめ」を念頭に、いささか気になった点を申し上げておきたい。

 それは基本法のもとで講じられた施策をめぐって、具体的に検証した結果を読み取れなかったことである。ここであえて今回の論点を絞り込むならば、農政の現場でもある市町村段階における検証が大切だと思う。とくに新たな施策の導入や既存の施策の組み替えについて、プラス・マイナス両面から評価することが、近未来の政策のレベルアップにつながるはずである。振り返ってみると、経営所得安定対策の導入と停止・復活、米の生産調整をめぐる制度の変転、さらには農地中間管理事業の新設と転換など、基本法下の農政には揺れも大きかった。安定しない制度については、対応する現場の負担の増大というコストが伴っている点にも留意する必要がある。

 施策の検証という点では、しばしば官邸主導型などと称される政策にも着目すべきである。農林水産省などとは別の世界から舞い降りてくる政策については、基本法や食料・農業・農村基本計画の枠外にあるとも言えようが、基本法下の制度への影響の観点に立った検証は重要である。市町村段階の農政の運用のあり方と密接に関係しているケースも多い。加えて、別世界から舞い降りてくる政策に関しては、それがどのような議論を経て具体化され、提案に至ったかについて検証することも大切である。そもそも、この点について検証可能な十分なエビデンスが公的に存在するのだろうか。ここも気になるところではある。