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町村のグローバル化と多文化共生

印刷用ページを表示する 掲載日:2023年6月5日

東洋大学国際学部国際地域学科教授 沼尾 波子(第3242号 令和5年6月5日)

日本で生活する外国人は、感染症拡大の時期を除けば、近年、増加してきた。町村においてもその数は、2014年の9.9万人から、2019年14.2万人(住基人口ベース)へと5年間で43%増加している。

人口減少が進む日本社会で、地域の産業や生活を担う人材確保は、近い将来、ますます深刻なものとなるだろう。そこで外国人材に期待するとすれば、彼らを受け入れ、支援する環境を地域で整えることが必要となる。

ところが、総務省が2022年に実施した多文化共生の推進に係る指針・計画の策定状況調査結果をみると、町村の対応は鈍い。すでに多くの外国人が居住する大都市や、多くの外国人を雇用する製造業等が多数立地する外国人集住都市では、多文化共生推進計画の策定等を通じて、外国人住民の受入れに対する対応策を用意している。それに対し、町村で指針や計画等を策定済みと回答したのは273町村(全町村の29.5%)に留まっている。多くの町村では、地域に居住する外国籍住民は限られており、計画を策定するまでもなく、個別に対応すればよいと判断したのだろう。

実際に、外国人住民割合が高い町村はごく一部である。多くの日系南米人が集住する群馬県大泉町は代表的だが、農業や水産業等で技能実習生が多く居住する町村、観光業でインストラクターやガイド等が居住する町村、外国人研究者や留学生のいる大学や専門学校等が立地する町村など、個々に特徴がある。

だが、これまで地域で就労し、生活する外国籍の人々が限られていたとしても、近い将来、海外からの人材を受け入れるという選択はないのか、考えてみる必要はありそうだ。

すでに将来を見据えて、地方創生戦略で、介護や観光などの分野における外国人材受入れ策を掲げる町村もある。そこでは、日本語教育や日本の生活習慣などの学習機会の提供とともに、文化や価値観の相違による誤解や摩擦が生じないよう、地域で交流の機会を持つ工夫も模索されている。出入国在留管理庁による環境整備交付金を活用して多言語対応を図る自治体もある。

グローバル化の時代、海外の自治体と交流する国際化の取組みも大切だ。他方で、わがまちで働き、暮らす人々として外国人材をどう位置付けるのか。また、水源林や不動産を購入する外国人に対し、地域社会のルールや慣習について、どのように理解を求め、合意を図っていくのか。町村においても、多文化共生について考える時期に来ている。