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富太郎博士ゆかりの桜咲く

印刷用ページを表示する 掲載日:2023年4月3日

フリーアナウンサー 青山 佳世(第3235号 令和5年4月3日)

今年の桜は3年ぶりに華やいだ気持ちで愛でています。

知人から「練馬区にある牧野記念庭園へセンダイヤサクラを見に行きましょう!」とお誘いを受けました。初めて耳にした桜の名前に驚き、調べてみると「サクラ属 園芸品種‘仙台屋’」、世界的な植物分類学者 牧野富太郎博士がふるさと高知で発見した桜とありました。世界各地の植物を探し、命名した植物は1500を超えます。94歳で亡くなるまでの30余年を過ごした練馬区の自宅跡は、牧野記念庭園として一般公開されています。「我が植物園」として大切にした庭には約300種類の草木類が生育していて、‘仙台屋’桜が見頃を迎えていました。もともとは高知市の商家にあった桜で古くは「仙台屋の桜」と呼ばれ、地元の人たちに愛されてきたもので、桜好きな博士も自宅の庭にも仙台屋桜を植えて大切にしたそうです。

ロマンを掻き立てられ、博士のふるさと高知県佐川町を訪ねました。高知駅から普通列車で1時間ほどの山間の町、かつての造り酒屋のどっしりとした屋敷や白壁の酒蔵の家並みが続く落ち着いた町でした。この春放送の連続テレビ小説「らんまん」の主人公のモデルが牧野富太郎博士とあって県内各地は、「連続テレビ小説を生かした博覧会~牧野博士の新休日~」という観光イベントが1年かけて開催されます。

佐川町の桜の名所といえば牧野公園です。明治35年に博士が東京からソメイヨシノの苗を贈ったことをきっかけにして、地元の人たちが植え、その後もボランティアの皆さんが丹精込めて手入れしてきました。見事な桜の名所になりましたが、年月とともに桜の老木が目立つようになり、平成20年からは桜の再生に取り組んでいます。東京にいたときには‘仙台屋’桜に思いを馳せていましたが、佐川の皆さんにとっての桜とは、博士から贈られ、町ぐるみで思いを育て守ってきた証である「ソメイヨシノ」そのものだったのです。

街を歩くと、個人のお宅のお庭にも山野草が植えられています。富太郎のふるさととしての誇りの表れでしょう。桜の再生とともに「まちまるごと植物園」と銘打ち、博士ゆかりの植物を種から植え、お宅の庭などで育てる取り組みをしています。担当の方も、まちのひとも楽しんで活動している空気が伝わってきました。「8年余り、活動も時には盛り上がり、時には停滞し、うまくいかないこともあった」そうです。でも汗を流し、工夫しながら続けてきたからこそ、この連続テレビ小説の舞台となったタイミングに、大きな花を咲かせることになるのでしょう。

さくら咲く花びらの向こうに 富太郎博士と佐川の人たちの明るい笑顔がのぞいています。