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ひとり死と弔い

印刷用ページを表示する 掲載日:2023年3月13日

東京大学名誉教授 大森 彌(第3232号 令和5年3月13日)

人は他者とのかかわりの中で生きている。その人が亡くなれば、生前につながりがあった人たち、普通は家族や親類・縁者などが通夜・葬式、火葬、埋葬を行い、亡き人を弔う。死者は他者の手によって葬られる。そこには生前の人間関係が反映している。弔いの様式は変化しても、死者の扱いが社会のあり方の問題であることに変わりはない。

日本では、遺族など死者を弔う人がいない場合は自治体が代わって行わなければならないことになっている。「墓地、埋葬等に関する法律」の第9条には、「死体の埋葬又は火葬を行う者がないとき又は判明しないときは、死亡地の市町村長が、これを行わなければならない。」とあり、その経費は当該自治体が負担する。そうした例は、従来は、本人の名前や本籍地などが分からない、いわゆる「行旅死亡人」の場合で、無縁仏として葬られてきた。

しかし、今日では、身寄りがなく、いても頼れず、独りきりで死を迎えた高齢者が「無縁遺骨」として葬られるケースが増えており、自治体は遺骨を納める納骨堂の整備に苦慮しているという。引き取り手のない遺骨は、役所・役場の一角に半年から一年程度安置された後、無縁納骨堂へ移される。誰に死後を託すのか、誰が死者を弔うのか、本人の意向を含め、ひとり死への備えをどうするのか、自治体の対応に工夫が求められているのではないか。

頼れる身寄りがなく、独りで最期を迎える高齢者が地域で安心して暮らせるためには、訪問・通信による安否確認をはじめ、入院などの連帯保証、延命治療などの医療決定、金銭管理、死後事務手続きなどの包括的な相談支援が必要である。自治体の中には、例えば「『おひとりさま』あんしんサポート相談室」といった取組を始めているところもあるが、この相談支援に死後事務手続きが含まれていることが重要である。死後事務には、医療費の支払い、家賃・地代・管理費などの支払い・解約手続き、介護サービス・施設利用料の支払い、通夜・告別式・火葬・墓の選定・納骨・埋葬手続きなどであるが、所持するスマホやパソコンの内部データの消去も必要になる。

町村の場合でも、小規模の利点を活かして、独り暮らし高齢者が、どこで、どのように暮らしているのかを把握し、一人一人について地域と自治体がサポートチームを編成し、弔いに関する段取りを相談できる体制を整備する必要があるのではないか。この相談支援を通じて付き合い・交流のあった人たちが、ひとり死を弔い、無縁納骨になることを極力少なくするのである。縁あって、ある地域で暮らし生を終えた人を縁者たちが集いて弔い、死後事務を行う、そういう地域社会こそが本当に心根のやさしいコミュニティなのではなかろうか。