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地方のエネルギー自立への曙光

印刷用ページを表示する 掲載日:2023年3月6日

作新学院大学名誉教授 橋立 達夫(第3231号 令和5年3月6日)

エネルギー価格の高騰が続き、また10年に一度と言われる寒波の襲来、諸物価の上昇と相俟って、家計を直撃している。さらに地方では、産業基盤にも大きな影響が出ている。農林業分野に限っても、農業用ハウスの冷暖房用電力や灯油、農林業用機械の燃料、肥料や畜産飼料の価格が高騰し、さらに輸送コストの負担も大きくなっている。漁業についても、漁船の燃料、保冷や加工のための電力と燃料、輸送コストなど、生産から出荷までのあらゆる段階でのコスト増大により、深刻な影響を受けている。土木建設業や、食品加工など、地方の他の主力産業に対する影響も大きい。

しかしこのエネルギー危機への対応は、エネルギーの多様化、分散化を進める契機ともなる。太陽光、風力、潮力、小水力などの発電、地熱やバイオマス活用など、再生可能エネルギーのコスト障壁が下がり、開発に追い風となることが期待されるのである。しかも、これらの資源は、地方にあまねく存在し、なおかつ人口密度が低ければ、それだけ一人当たりの資源量は大きい。

再生可能エネルギーの開発には、初期投資が大きいなどの課題があるが、地域内で生産できることで、消費や雇用など地域内の経済循環が生まれる。たとえば自動車が地域内で生産される電気や水素で動くようになれば、ガソリン消費額の域外、国外への流出がなくなる。発電施設の建設や維持管理費の一定部分は地域に落ち、雇用も期待できる。

地方のエネルギー自立に向かう取組は各地で生まれている(注1)。太陽光発電、風力発電はすでに広く普及しており(注2)、小水力発電、小型風力発電、バイオマス活用(木質地チップ、ペレットによる発電・暖房、バイオガス発電)、地熱発電など、新しい技術開発の成果も出つつある。蓄電技術、熱交換技術の画期的な開発と進展が待たれるところであるが、世界的なSDGsの潮流拡大の状況を見ると、地方のエネルギー自立への扉は大きく開き始めている。食料と並んで、エネルギーの自給率が上がれば、本当の「地方の時代」が招来される。


(注1)詳細は「農山漁村における再生可能エネルギーの取組事例:農林水産省」参照

https://www.maff.go.jp/j/shokusan/renewable/energy/zirei.html

(注2)太陽光発電、風力発電には、建設による環境、景観の破壊の問題が内在する。また太陽光発電には資材の中国依存などの問題もある。