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ボチボチでも「人づくり」の勧め

印刷用ページを表示する 掲載日:2023年2月6日

農業ジャーナリスト・明治大学客員教授 榊田 みどり(第3228号 令和5年2月6日)

先日、秋田県藤里町にお邪魔した。世界自然遺産・白神山地の南麓にあり、人口減少率は県内トップ。その藤里町の粕毛地区が、近年ちょっとわくわくする動きを見せている。

除雪の共助隊や、農地の草刈り共助組織が誕生する一方、農泊で人を呼び込み、交流拠点「南白神ベース」を建設するなど、小さな経済も生まれ始めている。「まちづくり協議会」も誕生し、昨年から農村RMOの設立に向けて動き出した。

牽引しているのは、もともとの地域リーダーだけでなく、故郷の衰退に危機感を持ったUターン者も大きな存在だ。羊の繁殖・飼育販売での起業を目指して同地区にやって来た地域おこし協力隊の若者もいる。

農業分野に関していえば、林野率の高い山村で、認定農業者は町内50名程度。中山間地域等直接支払制度の受け皿となる「集落協定」も、粕毛地区ではゼロだ。それでも地域力を活かした組織化で、農業資源管理・景観保全に取り組んでいる。

同様の事例は、各地で生まれ始めている。兵庫県加古川市では、ため池管理の人材に兼業農家・非農家人材を取り込み、同県丹波篠山市でも、農家・非農家が混在する草刈り専門組織が結成されているという。(『地域人材を育てる手法』(農文協))

中山間地域では「リーダーがいない」という声をよく聞く。しかし、いなければ育てるしかない。中山間地でも農家人口は2割程度。外部から人を呼び込むことも、もちろん大事だが、同時に、8割の非農家住民にも地域人材がいるかもしれない。

人が育つのには時間がかかる。「今からでは間に合わない」という悲観論もよく聞く。「でもね、担い手不足、荒廃地増加、限界集落。もう20年も前から言われ続けているのに、状況は全く変わっていないと思いませんか」と、以前お会いしたとき話してくれたのは、広島県の集落営農リーダーを数多く育成し、農村RMOの先駆的モデルとされる東広島市小田地区の「共和の郷・おだ」のリーダーも長らく務めた吉弘昌昭さん。

そして、こう言葉を続けた。「結局、『人』を育てられるかどうかに尽きると思うんです。全く進まないよりは、ボチボチでも進むほうがいいんじゃないでしょうか」

ボチボチでも始めなければ何も変わらない。藤里町を歩きながら、吉弘さんの言葉を改めて噛みしめた。