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推し ―「関係人口」の新しいかたち

印刷用ページを表示する 掲載日:2023年1月30日

オープン-アンド-フレンドリースペース Area898
町の賑わい拠点「Area898」(奥は民間テレワーク施設)(埼玉県横瀬町)

東洋大学国際学部国際地域学科教授 沼尾 波子(第3227号 令和5年1月30日)

最近の若者言葉の1つに「推し」という語がある。これは「好き」という感情を超えて、積極的に応援したい、自分にできることは全力でやってあげたいという応援を意味する。

いま、人口減少が進む地域では「関係人口」の創出が模索されるが、地域を愛する「推し」を呼び、共創する動きが各地で生まれている。

なかでも、埼玉県横瀬町の取組みは独特だ。まずは行政が人々の取組みを「推す」のだ。

横瀬町は「日本一チャレンジする町・チャレンジを応援する町」を標榜する。2016年、町は人口減少に対する危機感から地域の未来を変えることを宣言し、その起爆剤として「横瀬町官民連携プラットフォーム(通称:よこらぼ)」を構築した。様々な社会課題に対し、横瀬町をフィールドにして、誰でも挑戦できるよう事業提案制度を創設し、町と連携して推進する。社会課題については範囲を限定せず、応募から採択までの時間も最短で約1カ月というスピード感を持った対応が図られている。

具体的には、被写体中心の360度自由視点で映像撮影できる新技術の実証実験を、地元のサッカー少年団やスポーツ吹き矢協会などの協力で実施した例や、小児科医のいない町でスマホでの遠隔医療相談サービスと医療費削減効果の検証を行った例などがある。

2023年1月までに126件の提案が採択された。事業分野は、教育・子育て関連、新技術活用・開発、シェアリングエコノミーなど多岐にわたる。提案者も大企業から中小企業、スタートアップ企業、大学、個人等、実に幅広い。だが、これらのうち財政支出を行った事業はたった5件に留まる。行政はあくまでも事業に対する信頼性の付与と、事業実施の場や情報の提供等を中心に行う。

提案された事業は、民間投資を喚起し、遊休施設の利活用につながるなど、地域経済の強化に結び付いている。空き店舗を活用した町の賑わい拠点「エリア898」も創設され、来訪者や二拠点居住者なども増加している。

空き家活用の他、鳥獣害対策、子どもの学びの場の創造など、多くの提案とともに、地域内外の人々がチャレンジを楽しみ、一つ一つ成果につなげている。

町は「出会い」「交流」「創造」の場を整え、熱量のある社会関係の再構築を支える。行政が人々の挑戦に伴走支援すると、その思いに対し、今度は応援された人々の側が、横瀬町「推し」になるという双方向の関係が創出されている。人々が集いたくなる「場」と「関係」を形にする政策が、「関係人口」を豊かに育む。

 
写真キャプション

Area898 という名称の由来は「898(ヤクバ)」。その名のとおり役場の管理施設で、町の官民連携プラットフォーム「よこらぼ」を通じて「新しいコミュニティ・イベントスペースを作りたい」という提案から生まれた町の中心にある“リアルな場”。併設する民間運営の宿泊付テレワーク施設との相乗効果で、新たなつながりが次々と生まれている。