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温泉をまちづくりに活かす~温泉まちづくりのススメ 

印刷用ページを表示する 掲載日:2023年1月9日

國學院大學観光まちづくり学部教授 梅川 智也(第3225号・令和5年1月9日)

はじめに

地域の経済・雇用を支える観光立国への復興は、国の成長戦略の1つである。単にインバウンドなどの数を追う量の回復だけでなく、コロナ後の新たな観光・観光地の高質化、付加価値化に向けた質の転換、つまり「創造的復興(Build back better)」を目指すことに意義がある。それは関係人口の創出・拡大による社会課題の解決にも繋がっていくことであろう。​

本稿では、全国の市町村の約8割、町村の半数以上に賦存する身近な地域資源である「温泉」に着目。世界的にみてもこれだけ多種多彩な温泉資源を有する国は希有であり、改めてそのグローバルな価値を再認識し、そしてさらに「まちづくり」に活かしていくことによって、コロナ後の「創造的復興」に結びつけていく方策について論考したい。​

1.温泉大国・日本を概観する

世界に温泉大国といわれる国は数多い。欧州のドイツ、フランス、イタリアをはじめハンガリーやチェコ、そしてアイスランドなどや、アジアでは韓国、台湾など、オセアニアではニュージーランドなどが有名である。あまり知られていないが、アメリカ西部にも多くの温泉がみられる。

日本は別府や熱海、伊東など欧州のような温泉都市は数少ないものの、温泉街といわれるまちや集落は比較的地方部、しかも自然豊かな地域に多く立地するのが特徴である。秘湯といわれるような人里から遠く離れた温泉地にも人々が訪れ、地域の活性化に寄与していることは周知のとおりである。

日本人の旅の歴史を紐解くと、江戸時代の旅は、関所(出入国審査)と手形(パスポート)が大きな障壁となって自由な旅は難しかったわけだが、例外扱いだったのがお伊勢参りや大山詣でなどの社寺参詣と農閑期や病気療養のための温泉湯治であった。農民はみな鍋釜持参で湯治に出掛け、疲れた身体を癒やし、日頃のストレスを発散していたのである。

戦後の高度成長期、日本人の旅行は団体旅行が隆盛となり、温泉旅館はこぞって大規模化を指向した。しかしながら、90年代初頭のバブル経済崩壊後は、急速な個人旅行への志向変化によって団体旅行が激減、多くの大規模旅館は経営破綻し、宿泊施設の形態は大きく変化した。

一方、日本人の旅行志向で不動の第1位は「温泉旅行」である。これはいつの時代でも老若男女を問わずにである。このように温泉に対する根強いニーズがありながら、実は温泉地はこの30年間ほど急速に宿泊客を減らし、イノベーションできない既存観光地の代表としてみられてきた。しかしながら、未だに廃墟と化したホテルや旅館が建ち並ぶ温泉地がみられる一方で、近年、若年層に訴求し、元気を取り戻しつつある温泉地も増えてきた。

ここ数年はコロナ禍で訪日外国人は少なかったが、彼らの温泉志向にも根強いものがある。世界中に「温泉」は賦存するが、男女別々に、水着をつけず、岩や檜など工夫を凝らした独特な風呂(浴槽)で、比較的高温の温泉に首までゆったりと浸る入浴スタイル、しかも多種多様な泉質が楽しめるという日本の温泉・温泉文化(=Onsen)は、これから日本の宝として世界的に認識、評価されることであろう。

毎日のように柔らかな新雪(ジャパウ)が積もる地域は世界広しといえども極めて珍しいということを、ニセコや白馬などへスキーに来ていたオーストラリア人が我々日本人に教えてくれたように、新しい価値発見者であるインバウンドによって日本の「Onsen」が世界的に評価されることも夢ではない。かつて草津温泉の泉質の良さがドイツ人医師・ベルツ博士によって世界に紹介されたように。

2.全国の温泉地の状況をみる

⑴ 温泉所在地・宿泊施設の動向

日本の温泉地は、環境省によると全国で2、934カ所(宿泊施設を有する)、源泉数27、970カ所に及び、そのうち38・9%は未利用となっている。温泉所在市町村は、2020年度現在、全国1、718市町村のうち1、450市町村(84・4%)、町村でみると926町村中465町村(50・2%)である。日本全国どこへ行っても温泉があるといった世界的にも特異な様相となっている。

源泉を利活用する宿泊施設数の推移をみると、1960~70年代にかけて急速な増加を遂げたものの、80年代に入ると横ばい状態を続け、1995年の15、714軒をピークに、2000~10年代は減少を続け、最新の2020年度は12、924軒とピーク時から2割ほどの減少をみせている。ただ、インバウンドブームに沸いた新型コロナ前の2018、19年度は、わずかではあるが増加に転じている

⑵ 宿泊人員の動向

需要側である延べ宿泊人員の推移をみると、1950年代後半の高度成長期に急速な伸びをみせ、73年度のオイルショック前に1億2千1百万人泊とピークを迎えるものの、その後は減少を続けた。80年代に入ると再び増加に転じ、バブル経済崩壊後の1996年度の1億4千3百万人泊をピークに再び減少した。近年になると東日本大震災が発生した2011年度をボトムに、外国人旅行者の増加や若年層に支えられて増加し、新型コロナ前の2017、18年度には、年間1億3千万人泊となった。これは全国民が1年に1泊以上温泉地で宿泊していることとなり、観光需要の多くを温泉地が受け入れていることが分かる(図-1)。

3.温泉にまつわる法制度をみる―温泉法と入湯税

⑴ 温泉法の課題

昭和23年、新憲法下で温泉法が施行され、温泉行政は厚生省の所管となった。簡単にいえば、所管部署が警察から保健所になったわけである。現在は環境省の所管であるが、文化財保護法などと並んで戦後の急激な国土開発に対して貴重な国民的な資源を守る意味が込められていたものと思われる。同法の目的は、温泉の保護、可燃性天然ガスによる災害の防止及び温泉の利用の適正化、そして公共の福祉の増進に寄与することにある。同法による温泉の「定義」は、「泉源における水温が摂氏25度以上で、かつ19種類の成分のうち、いずれか1つ以上が規定の含有量以上のものを含む」と比較的緩いものとなっている。そのため全国至るところに温泉が賦存するという状況を生んでいるともいえる。

いずれにしても温泉法は、掘削や成分、管理等温泉そのものに関する法律であり、温泉地全体の再生や振興に関するものとはなっていない。

⑵ 入湯税の概況

自治体と関係するものとして、市町村税であり観光振興に活用できる目的税である入湯税がある。入湯税は地方税法に位置づけられた税目で、次の4つに使途が定められている。①環境衛生、②源泉保護管理、③消防施設、④観光振興である。④の観光振興に活用できるようになったのは1991年からで、残念ながら認知度はそれほど高くない。

もともと入湯税は、1878年の雑種税に始まり、自主財源に乏しい自治体に少しでも独自財源をということから導入された経緯がある。都道府県税であった時代もあったが、1950年の地方税法改正を契機に市町村税となり、1957年に目的税となった。しかし現在では一般財源的に活用している自治体も少なくないのが現状であろう。

全国1、718自治体のうち、入湯税を徴収しているところは、2020年度で980市町村(57・0%)であり、徴収額は123億6千万円である。さらに町村でみると、926町村中465町村(50・2%)、徴収額は36億6千万円となっている。なお、新型コロナの影響を受けていない2019年度は全国で225億円、町村で約65億円である。入湯税を徴収する各市町村は入湯税条例を制定するが、その中で修学旅行は免税としたり、長期滞在者に対しては減税するなどそれぞれの地域の特性に応じた工夫を凝らしている。

入湯税の大きな特徴の1つは、地域住民が負担するのではなく、温泉地に来訪する域外の人が主たる納税者であることだ。しかも地域が観光振興に努力し、宿泊客(入湯客)が増えれば増えるほど税収が増加するという極めてやる気が出やすい仕組みになっている(表-1、図-2)。

⑶ 入湯税を観光まちづくりに活かす

最近、この入湯税を観光まちづくりに活用しようという動きがある。具体的には標準税率150円に100~150円程度を上乗せし、その超過課税分を温泉地の観光協会やDMO(観光地域づくり法人)が行う観光まちづくり事業のために補助するというものだ。釧路市の阿寒湖温泉が2015年4月にはじめて導入したのを契機に、2019年4月に別府温泉(別府市)、2020年4月に長門湯本温泉(長門市)が相次いで導入している。町村でも層雲峡温泉(上川町)など現在では10市町村で超過課税を実施している。

さらに温泉入浴客だけが負担するのではなく、平等性の観点からすべての宿泊客に負担してもらう宿泊税の方が望ましいという議論もある。現在、東京都、大阪府、京都市、金沢市など、町村では唯一倶知安町が宿泊税を導入しているが、導入を検討している自治体も少なくない。なお、コロナ後を見据えて2023年4月には長崎市が導入の予定となっている。

4.全国のユニークな取り組みをみる-まちづくりに繋がる事例

ここでは、全国の町村に所在する温泉地でユニークな観光まちづくりに取り組んでいる事例を紹介する。

⑴ 北海道・豊富町
~アトピー性皮膚炎などの湯治客受入

最北の温泉郷・豊富温泉は、大正15(1926)年石油試掘中に湧出した温泉である。わずかに油分を含んでいることから1990年代、乾癬やアトピー等の皮膚疾患改善に効果があると認知されるようになり、町が日帰り温泉施設や湯治客向け宿泊施設を整備したこともあり、全国から多くの湯治客が訪れるようになった。2017年には温泉利用型健康増進施設(連携型)に認定され、道外からの湯治客や長期滞在客の割合が増加した。

民間主体の受入体制づくりは、旅館の若い後継者達が戻ってきた2006年頃から活発化した。コンシェルジェ(湯治客への相談員)設置や「アトピーフォーラムin豊富」をはじめとした誘客イベント、交流イベントなどの開催により、湯治客の居場所の拡充が図られた。現在では、住民のみならず移住した湯治客自身が経営するシェアハウスやカフェも開設されたり、雇用促進のためのNPO法人が設立されたりと湯治客の受入体制づくりが拡がっている。

⑵ 群馬県・水上町
~リノベーションまちづくり

 草津温泉や伊香保温泉など温泉県・群馬を代表する温泉地として活況を呈していた水上温泉であるが、バブル崩壊後の団体から個人への急速な観光需要の変化に対応が遅れ、ホテル・旅館の廃業が相次いだ。転機は1995年、白馬在住のニュージーランド人M氏の来訪であった。彼は利根川上流でのキャニオニングを主体としたアウトドア事業を展開し、現在では水上温泉をアドベンチャーツーリズムの拠点とした。地域の自然や観光に対する高い志は、水上温泉再生のコンセプトメーカーともなっている。

一方、2017年から水上温泉リノベーションまちづくり事業が始まった。官民が連携して地域の民間企業や若手の仲間らによってまちなかにある空き店舗を活用してまちづくりに繋げていく事業である。すでに6軒の遊休不動産が再生され、廃墟となったホテルの解体や新しい宿泊施設の開業などが進んでいる。

⑶ 長野県・山ノ内町
~地元金融機関によるまちづくり会社設立

全国有数のスノーリゾート・志賀高原を有する山ノ内町であるが、バブル経済崩壊後のスキー需要の激減によって地域は大きく疲弊していた。町内の9つの温泉の総称である湯田中・渋温泉郷を再生させようと、地域の金融機関がコーディネーターとして「個」の支援ではなく、「面」的支援に関与した先駆的な取り組み事例である。まちづくり、ひとづくり、情報発信を目的に地域の若手を巻き込みながら2013年からスタートし、まちづくり会社「WAKUWAKUやまのうち」の設立や「ALL信州観光活性化ファンド」の設立などによって遊休物件のリノベーションをはじめ、地域を支える経営人材の育成や世界に向けた情報発信に取り組んでいる。

⑷ 熊本県・南小国町
~ビジョン2030の策定

温泉まちづくりの中核を担っている黒川温泉観光旅館協同組合が設立60周年を迎えるにあたり、コロナ後の未来の望ましい姿を描こうと策定されたのが「黒川温泉2030年ビジョン」である。温泉街全体を1つの大きな旅館と見立てた「黒川温泉一旅館」を地域理念とし、個々の旅館が競い合いながら、温泉地全体で繁栄していこうとの志である。「世界を癒す~日本里山の豊かさが循環する温泉地へ」をモットーに、旅館の食品残渣の堆肥化から、野菜栽培、旅館の料理へと循環する「一帯地域コンポストプロジェクト」や、あか牛料理1食に対して50円が寄付される「あか牛ファンド」の創設、次世代リーダー育成の「黒川塾」など持続可能な温泉地に向けた取り組みが進められている。

5.今後の方向性をみる~温泉をまちづくりに活かすために

⑴ ニーズの変化と新たなライフスタイルへの対応~若者への期待

かつて日本で温泉といえば「ひなびた」「古くさい」「年寄りばかり」といったマイナスのイメージで語られることが多かった。昭和という時代が終わって30年以上が経過し「昭和レトロ」ともいわれるなかで、まだその面影を残す温泉地に対して少しずつ見方、考え方が変化しているのではなかろうか。

近年の温泉地は20代から30代、いわゆるミレニアル世代やZ世代といわれる年代の利用者が予想以上に多くなっている。彼らは昭和の町並みを古くさいとは思わず、ある種の「懐かしさ」を感じて温泉まち歩きを楽しんでいるようだ。草津町(草津温泉)では、彼らを意識し、温泉街のメインシンボル・「湯畑」とは別に、新たなシンボルとなる「裏草津」を整備した。草津に来訪した人々は必ず湯畑を訪れ、利用の集中が発生することから、その分散効果も狙っているものと推察される。そこには数万冊のマンガを集めた「漫画堂」や洒落た「カフェ」、のんびりとくつろげるソファのあるウッドデッキや小綺麗な公園などがふるさと納税の資金を活用して整備されている。

彼らミレニアル・Z世代がこれから新たな「湯治文化」を生み出すのではないか。つまり温泉に行ったら一泊二食の旅館に泊まることがスタンダードだと理解している我々の世代とは異なり、数日程度滞在可能な簡素なゲストハウスや空き家をリニューアルした現代長屋などに滞在し、テレワークやワーケーション、ブレジャーなど新しいライフスタイルを実践する可能性を秘めている。

⑵ インバウンドへの戦略的対応
~「Onsen」理解の推進と世界への情報発信

2022年10月11日以降、コロナの水際対策が緩和されて以降、急激にインバウンドが戻りつつある。日本政策投資銀行と日本交通公社の共同研究によると、コロナが明けたらどこに行きたいか、という質問に対し、31の対象国・地域の中で「日本」と回答した割合が第1位となっている。特にアジアでその傾向が強く、欧米豪ではオーストラリアが第1位、アメリカ、イギリスで第2位、フランスで5位といずれも訪日意向は高くなっている。

外国人の温泉に対するニーズは、国によって異なる。我々日本人が全裸かつ男女混浴のドイツのサウナに抵抗があるのと同様、欧米人にはハードルが高いかもしれない。中国人も大勢で入浴する機会が少ないことから意外に日本の温泉は苦手という方も多いといわれている。とはいえ、一度、体験すると全く意識や考え方が変わってしまうのが日本の温泉である。日本文化として一度は温泉・温泉文化「Onsen」を体験してもらい、その良さを分かってもらうための様々な工夫をしていくことが期待される。

2020年、「フィンランド式サウナの伝統」がユネスコの無形文化遺産に登録された。続く2021年には「欧州の大温泉保養都市群」が世界遺産に登録された。7カ国、11カ所の温泉都市からなる国境を越えた世界遺産である。

日本の温泉・温泉文化「Onsen」を世界遺産に、という取り組みもすでに進められているが、世界遺産となるためには「顕著な普遍的価値」を明らかにしなければならない。台湾や韓国といった他国との連携や無形文化遺産への登録などを含めて、中長期的視点で検討していく必要があろう。いずれにしても世界への情報発信が急務である。

⑶ エネルギーとしての活用と環境への配慮~サステナブルツーリズム

温泉熱の活用について、特に地熱発電は賛否が分かれる。源泉が枯渇する懸念もあり、地域の特性に応じた慎重な対応が求められる。一方で温泉が熱エネルギーを蓄えていることは明らかで、これを熱交換によって水をお湯にすることは極めて有意義である。草津町(草津温泉)には温泉課があり、真水を高温の温泉との熱交換によってお湯にし、各戸に配湯するとともに、融雪、ロードヒーティングにも活用している。それによって旅館や家庭ではボイラーでお湯を沸かす必要がなくなり、二酸化炭素の排出を抑えることに繋がっている。温泉地が排出する温室効果ガスは、世界的にみればわずかかもしれないが、地域としてのイメージアップ戦略としても取り組む意義があろう。

一方、環境への配慮も重要である。温泉地で分かり易く見える化できる施策としては脱プラスチック、アメニティとフードロスの削減ではなかろうか。地域住民だけでなく、来訪客が大量に消費するプラスチックを削減し、アメニティ類の持参を促し、極力フードロスを減らす努力が求められる。さらにルールを守れない旅行者は歓迎できないというリスポンシブルツーリスト(責任ある旅行者)の受入を表明する勇気ある行動も必要であろう。

⑷ 癒やしや健康志向への対応
~クアオルト、メディカルツーリズムの推進

日本でも古くから温泉の医療効果、癒やし効果は認識されているところであるが、医学・医療がこれだけ発展した現代における温泉の医療効果とは何かを見極める必要がある。1つの方向性として「治療」から「予防」への転換である。病気になる前の対策として温泉療養が求められるのではないか。

ドイツの温泉では医療保険が使える。つまり「病気になる前に温泉に出掛けて休養し、未然に病気になることを防ぐこと」に対して保険が適用されるのである。無論、医師の診断、処方箋が必要となることは当然であり、保険の種類によっても異なるが、一泊当たりいくらといった保険金が支払われる。

日本でもドイツを参考に「クアオルト」という考え方が戦後導入され、様々な組織・団体がその普及に努力してきた。コロナ後の今こそ、温泉は物見遊山で行くところという意識を払拭し、温泉地を保養休養、予防医療の場とする考え方にシフトさせていくことも選択肢の1つである。

おわりに

最後に、温泉をまちづくりに活かしていくための第一歩は、自らの温泉・温泉地の特徴・個性を地域が理解することである。そのためには、まずは泉質の特徴を明らかにしてどんな効用があるのかを分かり易く伝える努力をすることだ。例えば、そぞろ歩きが楽しめる温泉街を目指してエリア全体のリノベーションを進めてきた長門湯本温泉では、シンボルである「恩湯」の温泉成分を「アルカリ性単純温泉」だけでなく、「ほんのり硫黄湯」を追加表記してより分かり易く特性を伝えようとしている。

もう1点は、まちづくりのための安定的な財源の確保である。前述したように、温泉に関しては入湯税という市町村税の目的税があるが、より平等性の観点からいえば、宿泊税の導入である。世界的にみても観光振興のための安定財源は宿泊税が主流となっており、国が2019年1月から国際観光旅客税(出国税)を導入して観光振興に活用する安定財源を確保したように、自治体も温泉まちづくりの財源確保に対して真剣に取り組むことを期待したい。

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梅川 智也(うめかわ ともや)梅川 智也(うめかわ ともや)
國學院大學 観光まちづくり学部 教授

旅行・観光分野のシンクタンク(公財)日本交通公社で約40年にわたって全国の観光地の活性化や観光計画の策定、観光地経営、観光まちづくりなどに取り組む。立教大学観光学部特任教授を経て2020年4月から現職。筑波大学大学院客員教授。東京女子大学非常勤講師。観光庁、文化庁、神奈川県などの委員を   務める。著書に『観光地経営の視点と実践』、『観光まちづくり』、『観光計画論』など。(一社)日本観光研究学会前会長。技術士(建設部門/都市及び地方計画)。