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制度の安定性も大切

印刷用ページを表示する 掲載日:2023年1月9日

福島大学教授・食農学類長​ 生源寺 眞一(第3225号 令和4年1月9日)

 食料・農業・農村基本法の見直しが本格化している。きっかけはロシアのウクライナ侵攻であり、食料安全保障の観点が強調されている。たしかに国境を越えた食料の供給が遮断される事態にもリアリティがある。多くの食料を海外に依存する日本にとって、看過できない国際情勢の急変だと言ってよい。同時に1999年の基本法の施行から20年以上が経過したことで、農業と農村をめぐる環境に変化が生じている点も否定できない。農政の現場である市町村の視点に立った検討の必要性も強調しておきたい。

 こう申し上げながら私の脳裏に浮かんでいるのは全国町村会による地域農政未来塾であり、塾生の皆さんが頑張った成果としての研究論文である。最後には休日返上の状態で書き上げられた論文には、自身の町村の未来に向けて創造力が発揮された作品が多い。集中的な学びと考察を通じて、町村職員の保持するポテンシャルが顕在化したわけである。卒塾後の地元社会への貢献にも大いに期待したい。とは言え、気になる点がないわけではない。それは農業・農村をめぐる制度がしばしば不安定なことである。言い換えれば、役場の職員には頻繁に変化する制度の詳細を理解し、これを農家などの関係者と共有するための作業に多くの時間を割くことが求められている。創造力の発揮にエフォートを投じることも難しくなる。

 制度は必要に応じて変えるべきである。けれども、安直な変更は再変更や再々変更につながることにもなる。比較的安定していた農地をめぐる政策についても、過去10年ほどは制度の変更に現場が振り回される状況が生じている。今回の基本法見直しのポイントのひとつは、基本法のもとでの農政の歩みを振り返り、制度の形成や変更について検証することであろう。とくに農政を具体的に支える市町村の職員の仕事のあり方に着目する必要がある。現行の基本法においても、地方公共団体は「区域の自然的経済的社会的諸条件に応じた施策を策定し、及び実施する責務を有する」と謳われている。