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明るい会話溢れる山村に敬意―長野県根羽村―

印刷用ページを表示する 掲載日:2022年12月12日

早稲田大学名誉教授 宮口 侗廸 (第3223号 令和4年12月12日)

この10月、熊本県で全国過疎シンポジウムが3年ぶりに対面で開催された。このシンポジウムでは例年過疎地域の優良事例表彰があり、筆者は長年この委員会の委員長を務めさせていただいている。各県からの推薦の中から候補を絞り、委員が手分けして現地を訪ね、表彰団体を選定してきた。かつては自治体の表彰が多かったが、最近は民間団体も多くなっており、今年度は自治体として岐阜県飛騨市と長野県根羽村が総務大臣表彰を受けた。

筆者は幸いこの2か所の現地調査を担当し、例年のように新たな感動の旅をすることができた。飛騨市は「ヒダスケ」という、集落や世帯の困りごとを解決するお手伝いをネットで募集することを職員たちが発案し、名古屋などの都市から2年間で1000人が自費で駆けつけるという、新しい交流の形をつくった。根羽村は、長野県の南端、愛知に流れる矢作川の源流部の人口900人に満たない山村であるが、最近、社会増だけではなくわずか10人とはいえ年間の正味の人口増を実現した村である。

根羽村は、92%が森林で、旧来の住民は全戸が根羽村森林組合員である、山村としての自覚が高い村で、林業の6次産業化にも実績を上げ、村の経済を担っている。そして、総務省の地域おこし企業人制度(現地域活性化起業人)で派遣された民間人が、そのまま村に移住し、移住コーディネーターとして外の人との接触を担っているが、都会的センスを理解しSNSも駆使する氏の存在は、移住者の増加に大きな力となっている。

村は移住(希望)者の居住のためにトライアルハウスを新築し、住民が集まりやすい多目的施設として民家をリフォームした。ここではママさんワークショップを始め、多世代を巻き込んだ集まりがいつも行われている。これらの開催の連絡の基本はSNSだということで、新しいやり方が移住者との間の垣根を取り払い、明るい付き合いを生んでいることがよくわかる。実際筆者が訪れた際も、どの施設に行っても村長を始めとする村人と移住した人たちが明るく会話している様子が見て取れた。移住者の中にはアメリカ系の女性ハンターもいて、今日もシカをさばいてきたと筆者に明るく語ってくれた。

小中学校はすでに令和2年に義務教育学校根羽学園として統合されており、5年から教科担任の授業を行うなど、教育も前向きである。林業という地域産業をいい形で展開しながら、多くの新しい動きを創り出し、素晴らしい自然の中で大久保村長を交えて明るい会話と付き合いが行き交っていることは、これこそ都会にない価値である。心から敬意を表したい。