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大発見には感性・直感が必要

印刷用ページを表示する 掲載日:2002年12月16日

筑波大学名誉教授 村上 和雄 (第2421号・平成14年12月16日)

二〇〇二年十月上旬に小柴昌俊・東大名誉教授がノーベル物理学賞、続いて田中耕一・島津製作所主任がノーベル化学賞を受賞されたというニュースが流れ、この快挙に日本中が久しぶりにわいた。

特に、田中さんは博士号も持たず、日本では無名のサラリーマン技術者である。四十三才という若さで、しかも企業技術者としての受賞は世界的にも非常に珍しく、日本の多くの人々に勇気と希望を与えた。

科学の成果は、一般の人々には、なじみが薄いが、その成果が生まれるプロセスには興味がある。田中さんの成果のきっかけは、実験の途中で間違った溶液を混ぜてしまったが、捨てるのも惜しいと思ったところから画期的な業績が生まれた。二〇〇〇年にノーベル化学賞を受賞した白川英樹さんも、同じような体験を持っておられる。

もちろん、間違いだけからは素晴らしい業績は生まれない。しかし、失敗などにより常識を破るような現象が現れた時が、科学者の勝負のときである。この時、その現象をどう解釈し、それを飛躍に結びつけるかの感性や直感が科学者にも必要である。

一般的に科学は、客観的、論理的な世界と考えられている。これは、コインに例えれば表側だけで、その裏に創造豊かな主観的な世界、みずみずしい感性や直感の世界が存在する。この世界をナイトサイエンスと呼んでいる。

特に、大発見の芽は、殆どナイトサイエンスからである。大きな発見は、単に今までの論理の積み重ねだけでは生まれない。そこに、大きな飛躍を必要とする。この飛躍には、感性や直感が不可欠である。

イトサイエンスは、仕上げられた結果に至るまでの、プロセスに深く関係する。プロセスであるから、必ずしも理屈通りには進まない。間違いがあったり、不思議な出会いや、天の味方としか言えない、予想外の幸運に恵まれ、歓喜する瞬間がある。