ページの先頭です。 メニューを飛ばして本文へ
トップページ > コラム・論説 > 食料安保と国民の農業参加

食料安保と国民の農業参加

印刷用ページを表示する 掲載日:2022年10月3日

明治大学農学部教授 小田切 徳美(第3215号 令和4年10月3日)

食料安全保障に対する人々の意識が高まっている。

ウクライナ戦争に加えて、円安による輸入農産物の高騰の中で、食料の国内自給の拡大が従来以上に期待されている。そのために、確保されるべきは、農地のみでなく、労働力、種子・肥料・農薬を含めた資材、資金、技術、そして流通手段などの多様な要素であろう。食料安全保障をめぐり、必要なのはこのような広い視野である。

労働力についても、それが欠かせない。農業に専従する労働力ばかりではなく、季節的なもの、日々の細切れ的な労働力、さらには援農ボランティアなども視野に入れる必要がある。

パート的な労働力について言えば、北海道のJAで導入が進むマッチング・アプリにより、一日単位の雇用を確保するケースが見られる。従来の季節的労働力が高齢化する中で、学生や副業などの比較的若い労働力により、生産の安定化を実現する農家もあった。「長年の労働力不足問題をこれで解決できた」という声も聞く。

また、援農ボランティアにも動きがある。都市農業には、従来からかなりの数の援農者がいるが、最近では、ボランティアが経営に直接意見を言い、農業経営者の「協働者」となる傾向が各所で見られるという(後藤光蔵・小口広太等著『都市農業の変化と援農ボランティアの役割』筑波書房、2022年)。

関係人口には、地域に、より深く関わるという傾向があるが、それと同じような動きが見られる。もちろん、そこには都市という特殊性があることは明らかであろう。しかし、国交省の推計によれば、三大都市圏の住民(18歳以上)で、①圏外の特定の地域を継続的に訪問し、②プロジェクトの企画・運営・協力・支援等を行うという条件を満たすものは、約151万人も存在する。その中には、一部であろうが、地方圏農業の援農を担うものがいると予想できる。

​さらに言えば、自給的な市民農園もある。コロナ禍初期の移動制限時には、その重要性が話題となっていた。これもまた、幅広い意味での農業労働力であろう。

つまり、一日単位のパート、援農、市民農園などの「国民の農業参加」が、多様な形で進んでいる。食料安全保障の議論でも、これらを「取るに足らないもの」とせずに、今後の推進の対象とすべきであろう。むしろ、人々の農業への多彩な関わりは、食料安全保障を支えるのに必要な、国民の農業理解を作り出す基礎力ともなるからである。