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森と水の源流館の20周年を祝して―奈良県川上村―

印刷用ページを表示する 掲載日:2022年8月1日

早稲田大学名誉教授 宮口 侗廸 (第3208号 令和4年8月1日)

地球の温暖化による多くの自然災害が現実のものとなり、国連サミットの発したSDGsがテレビ画面をにぎわす昨今であるが、20年以上前に、環境を守りきれいな水を流すことを決意した奥地山村がある。吉野林業の発祥の地といわれる奈良県川上村である。地球環境待ったなしといわれる今、ダム建設をめぐって揺れ動いてきた村がたどり着いた崇高な決意に、改めて敬意を表したいと思う。

30年近く前、旧国土庁の上下流交流に関する会議で川上村を訪れた筆者は、心ある職員から、ダム建設を受け入れて工事が進行している今、水源地の環境を守る村づくりを進めるための決意表明をしたいという相談を受けた。その時筆者は、思いつくままに5か条の宣言文を書かせてもらったが、村がそれをそのまま川上宣言として平成8年に東京から世間にアピールしたことは驚きであり、もちろん嬉しくもあった。

その内容は、きれいな水を流し、自然と一体となった産業を育み、外部の人にも自然に触れあってもらう仕組みをつくり、子供たちが生命の躍動に感動できる場をつくり、地球環境への人類の働きかけの見本になるという5か条である。その後川上村は水源地の村づくりに本格的に着手し、吉野川の源流の天然林を村有林として水源地の森と名付け、平成14(2002)年に、専属スタッフを公募し、ビジターセンターにあたる森と水の源流館をオープンさせた。15年度にはオリジナル副読本を作成し、県内の全小学校と吉野川の下流にあたる和歌山県の紀の川沿いの小学校に配布した。以後年間多くの小学生が源流館を訪れ、スタッフの案内で上流の自然に触れるようになった。なお川上村の職員の名刺の裏面には川上宣言がそのまま書かれている。

森と水の源流館は今年20周年を迎えるにあたり、スタッフそれぞれの得意分野を活かす形に展示をリニューアルした。従来続けられてきた「水源地の森ツアー」「源流学の森づくり」「源流のつどい」「吉野川紀の川しらべ隊」など多くのイベントや、環境学習プログラムが今年も用意されている。

源流館を運営しているのは公益財団法人吉野川紀の川源流物語という長い名前の財団である。下流との交流を意識してつけられた名称で、和歌山市の小学生と川上の小学生の交流が14年、「和歌山市民の森づくり」は11年目を迎える。村の支援なくして財団は成り立たないが、現栗山村長の、水源地の村としての使命を果たすという姿勢には、揺るぎはない。源流館の20周年を祝い、いつまでも源流の使命を果たし続けられることを願うものである。