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特定地域づくり事業協同組合の可能性

印刷用ページを表示する 掲載日:2022年6月6日

明治大学農学部教授 小田切 徳美(第3202号 令和4年6月6日)

特定地域づくり事業協同組合の設立が各地で進んでいる。

最新の情報では54組合が認定されており(2022年6月1日現在)、今年に入ってから既に24組合も増えている。昨年12月の総務省による調査では、認定済みを含めて、560の市町村が「活用意向あり」「検討中」としており、今後も急速な増大が予想される。

組合の地域分布を見ると、大都市圏を除き、ほぼ全域での設置が見られるが、あえて特徴を論じれば、ひとつは離島が8組合と比較的多いと言える。これは、元々離島では、複数の仕事を掛け持つ「多業」(マルチワーカー)というワークスタイルがあり、この仕組みが親和的であることによるものであろう。 そして、もうひとつの特徴は、地域づくりが活発な先発的市町村の名前が多く並んでいることである。今までの多彩な活動の維持・拡大のために担い手を必要として、組合設立に至った様相が透けて見えてくる。
ただし、各地を歩いて見ると、少なくない地域で、派遣職員集めに苦労している状況がある。この点にかかわり、次の点を指摘したい。

第1に、派遣事業の仕事は、無期雇用とはいえ、細切れ的な労働であり、そこに働きがいを見いだせない人々も一定割合いる。したがって、この仕組みは、仕事の中身よりも、「どうしてもその地域が良い」と住むことに優先的な目的があるような人々に有効性がある。その点で、実はIターンよりは、Uターン希望者の受け皿となる可能性がある。またIターンに対しては、仕事の安定性と同時に地域の魅力を訴える戦略が必要となろう。

第2に、この組合は、労働者の派遣を事業の中心とするため、先発地域でしばしば見られる、移住して、自ら仕事をつくるような起業を促進する機能までは期待できない。その支援には別の枠組みが必要であろう。とはいうものの、両者をつなぐことは可能である。つまり、派遣を、多様な業種を経験し、その中から起業対象を探すようなプロセスと位置づけるという発想である。いわば、「教育・研修」としての派遣である。その場合には、派遣労働者が起業に至る際の新たな支援策が必要になろう。

このように考えると、単なる人手不足対策ではなく、魅力的な地域づくりの一環として、制度を位置づけることが必要であることがわかる。この組合に「地域づくり」という名前が付いているのはそのような意味だと考えたい。