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置賜自給圏構想その後

印刷用ページを表示する 掲載日:2022年5月30日

ジャーナリスト 松本 克夫(第3201号 令和4年5月30日)

山形県南部の3市5町で構成する置賜地域で置賜自給圏構想が動き出してから8年。その後の様子を知りたくてコロナ禍が小康状態の時期を見計らって現地を訪れてみた。食と農とエネルギーを基本に自給度の高い循環型社会をつくろうという試みだが、先行したのはエネルギー分野である。

この分野で中心になっているのは元野村証券副社長で「骨を埋めるのはふるさと」と飯豊町にUターンした後藤博信氏。東日本大震災に衝撃を受けた後藤さんは、ふるさとにも豊富な地域資源があることに気付き、再生可能エネルギーを開発する新会社「東北おひさま発電」を立ち上げた。

同社は、初めは主に太陽光発電を手がけていたが、2020年に牛ふんを発酵させてメタンガスを発生させ、発電に使うバイオガス発電所建設に挑戦した。置賜地域は米沢牛の産地だが、畜産の規模拡大につれ、悪臭対策が課題になっていた。バイオガス発電はエネルギー開発と悪臭処理の一石二鳥である。

発電所建設の次の課題は発電した電気を電力会社に売るのではなく、直接地元に供給し、エネルギーの地産地消を実現すること。昨年8月、地元企業の共同出資でその役割を担う「おきたま新電力株式会社」が発足、後藤さんが社長に就いた。後藤さんは、「これからは自分たちがエネルギーの主権を持つべきです。中央支配からの脱却です」と語る。

食と農の分野の取組はやや遅れているが、国内自給率の低い大豆などの生産・加工・圏内流通を増やし、自給度向上を目指す。長井市の農家でこの分野の推進役である菅野芳秀氏は、「いのちのみなもとである土の健康を守る」ことを自給圏づくりの基本に据える。そこは「規模や効率や安さを追求するグローバリズムとは別の物差しを持った地域社会」である。菅野さんは、やがては置賜自給圏のような「地域自給圏を全国に形成し、日本列島を構成し直す」という壮大な夢も描く。