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四万十川に負担をかけないものづくり

印刷用ページを表示する 掲載日:2022年4月11日

法政大学名誉教授 岡﨑 昌之(第3196号 令和4年4月11日)

清流四万十川は四国山地から流れ出し、蛇行を繰り返して太平洋に流れでる。中流域の四万十町が合併前に第三セクターとし1994年に設立したのが株式会社四万十ドラマだ。正社員1名、臨時社員1名で、民家の一室から始まった。現在まで組織を牽引してきたのが畦地履正さん57歳で、20代後半、地元JAからの転身だった。

お茶や栗を活用した商品開発と販売が中心だったが、大きな転機は10年後、道の駅四万十とおわの開業に合わせて、三セクを完全民営化し新商品開発に取り組んだ2005年。開業した道の駅の指定管理者にもなった。Uターンした若者たちが生き生きと働き、開業9ヶ月で10万人の来場者を達成するなど、その経営は全国で評判となった。転機はまた10年後に訪れた。ちょっとした行き違いから、四万十ドラマは道の駅の指定管理業務から外れた。

道の駅はどう変わったか、昨秋、心配しながら訪ねた。何と一番目立つところに四万十ドラマの商品が置いてある。ひと安心したところに畦地さんが元気な笑顔で現れた。聞いてみると、以前一緒だったメンバーが昨年から経営にあたっているという。

地元の栗や芋を加工した四万十ドラマの商品は評判が高い。東京や大阪のデパートからも催事の出店要請がくる。だが原材料の栗と芋が足りず、農薬や化学肥料を使わない農産物の生産拡大が必須だ。提携する農家に分かり易い指標を示しながら芋や野菜の栽培を拡大してもらう。JAと連携して栗の栽培も増やす。それでも足りないのが生産を担う農業人材だ。畦地さんは地元出身の篤志家から土地と家屋の寄託を受け、有機農業や林業を担う人材育成のための宿泊研修施設の開設を準備している。

四万十川を見下ろす国道沿いに梅原真さんがデザインしたしまんと地栗工場も完成した。従業員も20名を超え、地元若者の雇用の 場となっている。社員による中学生への環境教育支援も、学校から要請されるようになった。「四万十川に負担をかけないものづくり」が四万十ドラマのコンセプト。四万十川は右往左往と蛇行していく。10年ごとに大きな転機を迎えてきた四万十ドラマは、これからもゆったりと蛇行を繰り返しながら、新しい農山村のあり方を示してくれるだろう。