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高齢社会における持続的なまちむらおこしに向けて

印刷用ページを表示する 掲載日:2022年3月21日

作新学院大学名誉教授・とちぎ協働デザインリーグ理事 橋立 達夫(第3193号 令和4年3月21日)

人口高齢化の流れが止まらない。1996年、全国の人口高齢化率(65歳以上人口の割合)が15%を超える時に、国の将来にかかわる問題として識者から警鐘が鳴らされた。しかしその後も拡大が続き、2005年には20%、2013年に25%、2021年には29・1%となった。2025年には30%を超えるという予測が出ている。

町村で見ると高齢化の度合いはさらに高くなる。2020年国勢調査速報によると、926町村のうち、高齢化率50%を超えている町村が15%にあたる143ある。(市は10市)。数年前に言われた言葉を借りれば、町村の15%が全域「限界集落」の状況にあるということになる。さらに15町村では高齢化率が60%を超えている。

しかし地域にとって、高齢化の影響は悪いことばかりではない。現代の高齢者は元気である。人生60年、70歳になれば古稀(古来稀なり)と言われ、65歳を超えれば十把ひとからげで「老人」と言われた時代とは大きく異なる。そして今、まちむらおこしの担い手の中心は高齢者である。若者や壮年世代は学業や仕事に忙しく、まちむらおこしの世界には参入してこない(これもステレオタイプの見方で、近年は若者の目覚ましい活躍も見られるのであるが)。それに対し高齢者は使える時間がたっぷりあり、多様な経験や知識を蓄えている。年金という固定収入もある。さらに見れば、高齢者の56・5%は女性である。現代のまちむらおこしの世界では、女性の力は極めて重要である。地域社会の中の強力なネットワーク、こうと決めたら素早く動く行動力、温かい心。それらがまちむらおこしをけん引する力になっている。

スイスの心理学者ユング(1875~1961)は高齢者に向けて、「衰えることを嘆くことはありません。変化する自分を活かすことを楽しみなさい。」という言葉を残している。地域の将来を憂い、真剣に、そして明るく活動をする高齢者は“かっこいい”。そんな高齢者に惹きつけられて若者が集まる。持続的なまちむらおこしは、このような世代間の交歓によって生まれる。