ページの先頭です。 メニューを飛ばして本文へ
トップページ > コラム・論説 > 新しい過疎法の意味

新しい過疎法の意味

印刷用ページを表示する 掲載日:2022年2月21日

明治大学農学部教授(大学院農学研究科長)小田切 徳美(第3190号 令和4年2月21日)

新しい過疎法(過疎地域の持続的発展の支援に関する特別措置法)が制定されて、1年近くが経とうとしている。最近では、新法による2020年国勢調査結果を踏まえた指定地域が明らかになり、全市町村の過半に当たる885市町村となったことが、マスコミで話題となっている。

その新法については、宮口侗廸氏により、本欄でも指摘されているように(第3157号「新過疎法の成立-人材育成を強調-」)、単に名称が変わっただけではなく、画期的な要素がいくつか見られる。そこには、総務省・過疎問題懇談会提言「新たな過疎対策に向けて」(2020年4月)の一部が反映されていると思われる。

その提言では、「都市とは別の価値を持つ低密度な居住空間」として過疎地域を捉える必要性が繰り返し論じられていた。これは、過疎地域には、都市と異なる独自の価値があると考えるものであり、従来から指摘されてきた、景観や自然環境のみならず、多様な地域資源を活かした新しいライフスタイルやビジネスモデルの構築も含まれている。この約10年間で活発化しつつある若者の「田園回帰」の背景にも、そうしたことが関わっているように考えられる。

過疎地域を、文字通り人が「疎ら過ぎる」ような遅れた地域、改善しなくてはいけないものではなく、価値ある空間と捉える点に新過疎法の神髄がある。そのため、人口低密度でも、豊かな地域資源を活かし、人々が住み続けることができる仕組みを作ることが必要だとしているのである。

そこで、過疎法が新たに重視したのが「人材育成」である。「人口低密度」を、逆に「地域資源高密度」と捉えて、生活の仕組みやビジネスを興すことができるような人材を育成し、あるいは呼び込んでいくことを意識しているのであろう。「人口減・人材増」の発想とも言える。

つまり、過疎地域とは、全体として人口減少過程にある我が国の中で、そこで必要な挑戦のフロンティアとして、国によって位置づけられた地域であろう。このように考えると、過疎指定地域が、市町村の過半数に及んだことを否定的に捉える必要はない。むしろ、新しい仕組みの構築に挑戦する地域が多数を占めたと考えたい。そのため、新たに指定を受けた市町村では、「地域資源高密度地域」「人材増地域」に向けた、従来とは異なる仕組みづくりを強力に進めることが社会的に要請されている。