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多様な新規就農者を「地域人」として受入れるために

印刷用ページを表示する 掲載日:2022年2月14日

農業ジャーナリスト・明治大学客員教授 榊田 みどり(第3189号 令和4年2月14日)

長年、農業現場を歩いていて、国の新規就農者支援事業と現場のズレを感じる点が大きく2つある。

ひとつは、これまで支援対象が専業農家育成に限られてきたこと。これでは最初からハードルが高い。まずは農外の仕事を見つけ、ある程度は生計のめどを立てた上での兼業就農・半農半X型就農も視野に入れたほうが、担い手の裾野は広がる。

もうひとつは、就農後の「生活」支援の視点が希薄なこと。就農はそこで暮らす「地域人」になることなので、コミュニティに受け入れられなければ定住の持続は難しい。農水省は農林水産業が管轄なので、この部分は、各自治体によるサポートに任されている。

実際、せっかくのIターン新規就農者が結局は出て行ってしまったという話をたびたび聞く。もちろん本人の問題もあるだろうが、より細かなサポート体制があれば地域に溶け込み定住できていたケースも少なくないのではないか。新規就農の受け皿だけでなく、“地域人”としての受け皿も同じくらい重要だ。

2020年に公表された新たな「食料・農業・農村基本計画」に、半農半Xや多業を含む「多様な担い手」の重要性が盛り込まれ、国の農政もベクトルが変わり始めたが、すでに現場では「多様な担い手」育成と「地域人」としての受け皿整備に動き出している先進地もある。

そのひとつが、神奈川県秦野市だ。筆者は一昨年から昨年にかけて取材に通ったが、同市では15年前から、兼業や定年帰農も含めた新規就農者(小さな農の担い手)を育て、就農と同時に“地域人”としても受入れる仕組みを構築しており、今までにIターンを含め70人以上の新規就農者が誕生・定住している。

詳細は、秦野市の取組をまとめた拙著「農的暮らしをはじめる本」を読んでいただきたいが、秦野市の取組のポイントは、①農業体験から本格就農まで、“農とのかかわりの階段”に応じた受け皿を用意②JAが地域協同組合として、農家・非農家にかかわらず“地域人”としての受け皿を用意し、支店単位でサポート体制を構築③行政・JA・生協など縦割りで地域に併存する組織に「地域」という横串を刺し事業連携を推進、ということになろうか。何かのヒントになれば幸いである。