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暮らしの中の硬貨の行方

印刷用ページを表示する 掲載日:2022年1月31日

東洋大学国際学部国際地域学科教授 沼尾 波子(第3187号 令和4年1月31日)

貨幣には3つの機能がある。第1に価格付けを通じた商品の価値尺度機能、第2に交換の媒介機能、第3に富の貯蔵機能である。

暮らしのなかで、貨幣の貯蔵が目に見えるのが貯金箱だ。子どもの頃、丸々と太った豚の貯金箱にお金を貯めて、一杯になったら、大きな買い物をした。募金活動でも硬貨は活躍する。貯まった小銭に一人ひとりの思いが積み上げられているように感じたこともある。

だが、そんなことも難しくなるのかもしれない。大手都市銀行などに続き、ゆうちょ銀行が2022年1月、預金や支払いの際に一定枚数以上の硬貨に対する手数料徴収を開始した。

新型コロナウイルス感染拡大を機に、キャッシュレス決済は大都市部を中心に急速に拡がった。だが、世界的に決済手段は現金からキャッシュレスへと移行するなかで、日本では、未だに現金を使用する人も多い。とりわけ電子決済システムの導入がそれほど進んでいない地域では、高齢者をはじめ、現金で買い物する人も多く、硬貨は日常的に利用されている。この硬貨が、ひとたび金融機関を通じて貯蔵ないし支払いに用いられる際に500円以上の手数料を要するとなれば、硬貨はコストを伴う「悪貨」となってしまう。

今後、日々の暮らしを支える決済や預貯金の仕組みをどう考えればよいだろうか。電子決済システム導入は一つの選択肢だが、システム利用料は地域外に流出してしまう。

地域のなかで取引や決済が廻り、安心して買い物や支払い、貯蓄や投資ができる環境が整うことは持続可能な地域づくりを考えるうえでも重要だ。暮らしの中で必要とされるストックや決済の仕組みがローカルに創出されていい。ボランタリな硬貨の両替サービスなど、地域のなかで硬貨を利用しやすい環境を維持する工夫があってもいいだろう。

他方で飛騨信用組合のさるぼぼコインをはじめ、ローカルな地域通貨を用いながら、地域に根差した金融機関が地域の経済循環を頑健なものとするためのインフラを整える動きもある。

地方銀行をはじめとして、地域経済循環を支えるローカルな信用制度の構築と、そこで必要な金融サービスの存続が望まれる。