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全国町村会創立100周年記念寄稿 全国町村会と外部研究者とのコラボレーション

印刷用ページを表示する 掲載日:2021年11月15日

東京大学名誉教授 大森 彌(第3180号・令和3年11月15日)

全国町村会との出会いは1986(昭和61)年9月頃でしたが、それから約35年の間、私は全国町村会の調査研究や提言作成に協力するという形でお付き合いをさせていただいています。この間のご厚誼に感謝しつつ、外部研究者の1人として協力活動の概略を書き留めておきたいと思います。

3部作の発刊

全国町村会の事務局内に「町村における諸問題を調査してその実態を明らかにするとともに町村行政のあり方について研究を行う」という目的で「町村自治研究会」が設けられましたのは1987(昭和62)年の2月でした。実際の調査研究は西川治立正大学教授(地理学)と大森彌東京大学教授(行政学・地方自治論)の両名が委嘱をうけ、この両名を共同代表とする7人の研究員から成る「町村研究フォーラム」が行いました。全国町村会の中に、外部研究者と合同で調査研究を行う組織ができたのは初めてということでした。実際に手引きをしてくださったのは自治省消防庁長官の木村仁氏でした。木村氏は、1991(平成3)年11月から1994(平成6)年9月まで事務総長を務めています。

この最初のコラボによって、1989(平成元)年11月に『高齢化時代と町村自治 : 「朗年社会」をめざして』、1991(平成3)年11月に『地域を拓き地域を結ぶ :町村の交流事業』、1993(平成5)年11月に『地域を担う人材 :人を育て人を活かす』という充実した内容の3部作が発刊されました。町村にとって今日まで通じる重要な課題である高齢化、交流、人材というテーマが選ばれています。

矢継ぎ早の提言

1990年代半ば、地方分権改革と市町村合併という自治体をめぐる大きな潮流が町村にも押し寄せていました。全国町村会は、1999(平成11)年3月に、「町村の役割について国民のコンセンサスを得る方策検討委員会」を設置し、21世紀の町村、とりわけ農山村の果たす役割について検討を重ね、2001(平成13)年7月に提言書、「21世紀の日本にとって、農山村が、なぜ大切なのか -揺るぎない国民的合意にむけて-」を打ち出しました。

この提言の作成に「地域政策フォーラム」(代表・大森彌千葉大学教授、岡崎昌之法政大学教授、宮口侗廸早稲田大学教授、橋立達夫作新学院大学教授、佐久間正子研究員)が協力しました。提言は、国土の大半を占め、生命の営みに不可欠な空気、水、緑、食糧などを供給している農山村の実態と、悪戦苦闘しながらも自立しようとしている町村の実態を紹介するとともに、都市と農山村の共存に向けて揺るぎない国民的合意を作り出すため、かけがえのない農山村の維持と発展に町村がいかに貢献しうるか、町村としての決意を述べて広く理解を求める内容となっています。

この提言のフォローアップのために、全国町村会の中に「町村の新たな自治制度に関する研究会」が設置され、現地調査を踏まえ検討が続けられました。1999(平成11)年7月31日から会長に山本文男福岡県添田町長が就きました。研究会は矢継ぎ早に提言を取りまとめています。

2002(平成14)年11月に「いま町村は訴える」、2003(平成15)年1月に「市町村のあり方についての提言書 -連合自治体(仮称)制度の創設-」、同年2月に「町村の訴え-町村自治の確立と地域の創造力の発揮-」、同年12月に「町村からの提言-市町村合併と 分権改革・三位一体改革について-」、2004(平成16)年に「町村自治の発展を支える財政制度の構築に向けて -地方交付税制度のあり方について-」、2005(平成17)年11月に「地方分権の確立と町村行財政基盤の強化をはかり 住民一人ひとりが誇りと愛着を持ち 生きがいを実感できる魅力ある町村の実現を目指して-町村からの提言-」、2006(平成18)年12月に「私たちは再び農山村の大切さを訴えます ~住民一人ひとりが誇りと愛着を持てる活力と個性溢れる町村を実現するために~」。これらは、この時期の全国町村会と外部研究者とのコラボの成果であるとともに、全国町村会が、広く世間に何を訴えようとしていたかを知るうえで重要な広報戦略文書といえるのではないかと思います。

道州制推進の動きへの対処

2006(平成18)年2月、第28次地方制度調査会が「道州制のあり方に関する答申」を提出、9月第1次安倍晋三内閣発足、12月「道州制特別区域における広域行政の推進に関する法律」が成立、2007(平成19)年1月道州制ビジョン懇談会が発足・2008(平成20)年3月中間報告、といった一連の動きの中で、2007(平成19)年4月、「道州制と町村に関する研究会」(座長・大森彌。以下、研究会)が設置されました。道州制の導入によって大きな影響を受ける町村のあり方についてさまざまな角度から検討を進め、「道州制」をめぐる諸問題について町村側から一定の方向性を見出すことが目的でした。

研究会は、2008(平成20)年10月に「『平成の合併』をめぐる実態と評価」をまとめました。第29次地方制度調査会「法令上義務付けられた事務の一部を都道府県が代わって処理する」方策を答申したことをどのように考えるか、今後どのような対応がありうるかについて検討するため、すべての町村を対象にして、その現状・認識・意見をアンケート調査し、その結果を取りまとめました。こうした調査は全国町村会としては初めてということでした。なお、「研究会」は、2011(平成23)年8月、町村における専門職員の配置状況や都道府県の新たな補完に関する考えについて実地補足調査を行い、その結果を公表しました。

2009(平成21)年の参議院選挙では、ほとんどの政党が道州制の実現を打ち出していました。2012(平成24)年の衆院選が近づき、各政党は、選挙で有権者に問う政策を準備していました。2012(平成24)年7月、自民党道州制推進本部(以下、推進本部)・総会に「道州制基本法案(骨子案)」が提出され、衆院選における自民党の選挙公約になるものと思われました。それは町村の存亡にかかわる内容を含んでいました。2012(平成24)年全国町村長大会は「道州制の導入は絶対反対」を掲げました。  

2012(平成24)年暮れの衆院選の結果、自民・公明の連立政権が復活しました。その連立政権合意文書には「道州制の導入を推進する」が盛り込まれていたのです。自民党道州制推進本部は、従前の案に手を入れた「道州制推進基本法案(骨子案)」の国会提出を企図していました。2013(平成25)年11月20日に開催された全国町村長大会は「『道州制基本法案』の国会提出と道州制の導入に断固として反対していく」という特別決議を行っています。

「研究会」は、会議を重ね、基本法案の条文ごとに問題点を洗い出し、全国町村会と推進本部との公式・非公式な折衝を考え方の面でバックアップしました。推進本部は、2014(平成26)年4月2日に推進本部総会及び合同会議を開き、地方六団体等の意見を参考にして「道州制推進基本法案(骨子案)」(4月2日版)を、さらに、4月25日開催の本部及び合同会議において「修正案:道州制国民会議の設置等に関する法律」を提示しています。しかし、2014(平成26)年6月12日、推進本部は基本法案の第186国会提出を断念することになりました。全国町村会・全国町村議会議長会などから同意を得られなかっただけでなく、自民党所属の国会議員からも少なからぬ慎重・反対の意見が出され、党内に法案上程までの気運は醸成されなかったからでした。推進本部としては「4月2日の総会に示した法案(骨子案)」を「現時点の案」とし、これを棚上げしたことになっています。

地方創生対応

2014(平成26)年9月、全国町村会は、藤原忠彦会長の指示の下、「人口減少対策に関する有識者懇談会」を設置しました。懇談会は、地方創生に関する考え方や施策を検討・取りまとめ、これに基づいて、全国町村会は、2014(平成26)年11月17日、「地方創生の推進に関する提言」を発表しました。また、2017(平成29)年4月1日「町村における地域運営組織について」を取りまとめています。2020年(令和2)の1月以降、新型コロナ禍が続く中で、全国町村会は「コロナ下・コロナ後社会を見据えた提言」を取りまとめていますが、それには、研究会メンバーは個人的な助言という形で協力しています。

筆者の専攻分野は行政学・地方自治論ですが、全国町村会の研究会にかかわらせていただき、全国の農山漁村地域と町村役場を訪れ、実情をつぶさにお聞きすることによって、行財政上のさまざまな困難と同時に、町村長をはじめとする関係者の地域に寄せる熱い想いと工夫を凝らした施策の数々を知る機会を得ました。それを通して町村のすばらしさ(スモール・イズ・ビューティフル)とその研究が日本の地方自治研究に不可欠であるとの確信を得ました。既に齢81を越えましたが、終生、町村応援団の一人でいたいと思っています。

 

大森先生大森 彌(おおもり わたる)

1940年、旧東京市生まれ。東京大学大学院博士課程修了。法学博士。東京大学教授、東京大学大学院総合文化研究科長・教養学部長、千葉大学教授、放送大学大学院客員教授などを歴任。東京大学名誉教授。専門は行政学・地方自治論。

地方分権推進委員会専門委員・くらしづくり部会長、日本行政学会理事長、社会保障審議会会長・同介護給付費分科会会長、地域活性化センター「全国地域リーダー養成塾」塾長、NPO地域ケア政策ネットワーク代表理事などを歴任。現在、全国町村会「町村に関する研究会」座長、厚生労働省成年後見制度利用推進専門家会議委員長など。

著書に『町村自治を護って』(2016年、ぎょうせい)、『自治体の長とそれを支える人びと』(2016年、第一法規)、『自治体職員再論』(2015年、ぎょうせい)など。